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迷いの竹林
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二ッ岩 マミゾウ:
明日の狐狸親睦会、楽しみじゃのう。
のんきな狐どもに、一杯食わせてやるときじゃ。
射命丸 文:
スクープの匂いがすると思ったら、貴方でしたか。
今度は、何を企んでいるんです?
二ッ岩 マミゾウ:
なんじゃ、天狗のブン屋か。実は、狐どもを
この強力な酒でつぶしてしまおうと思ってな。
射命丸 文:
強力な酒……って、えええっーー!?
それって、もしかして……!
射命丸 文:
銘酒「鬼好み」じゃないですか!
いったい、どこで入手したんです?
二ッ岩 マミゾウ:
どこでって……。知り合いの妖怪からじゃよ。
薬草を買ったとき、一緒にもらってな。
二ッ岩 マミゾウ:
儂は、とにかく強い酒としか聞いておらんが……。
そんなにすごいものなのか?
射命丸 文:
すごいなんてもんじゃありません!
知る人ぞ知る、幻の逸品ですよ!
射命丸 文:
鬼を酔わせてしまうほど強く、それでいて
呑みやすいという究極の酒だそうです。
射命丸 文:
もし、それが本物の「鬼好み」であれば
それだけで、大スクープでしょうね……。
二ッ岩 マミゾウ:
……む? まるで、これが偽物とでも
言いたげな口ぶりじゃのう。
射命丸 文:
ご存じないのですか? 「鬼好み」は
その貴重さゆえ、巷で模造品が出回ってるんです。
射命丸 文:
中身は水で薄めた、その辺のお酒でした、
なんてことも珍しくないみたいですよ。
二ッ岩 マミゾウ:
なるほど。ならば少し味見をしておこうかの。
酒の良し悪しくらい、一口呑めばわかるわい。
二ッ岩 マミゾウ:
んぐっ。……む! 稲穂のふくよかな香りと、
芳醇な旨み! こりゃ、なんたる美酒じゃ!
二ッ岩 マミゾウ:
まごうことなき本物の味わいじゃな!
ほれ、お前さんも一口どうじゃ?
射命丸 文:
えっ!? 嘘でしょう、本物!?
す、少し確認させてください……。
射命丸 文:
んぐっ。……お、おいしい! 後に残る
酸味が上品で、いくらでもいけちゃいそうです!
射命丸 文:
まさか、こんな所で本物に出会えるなんて……。
親睦会の際は、ぜひ記事にさせてください!
二ッ岩 マミゾウ:
儂は構わんぞい。それにしても、
水を乞いて酒を得る、とはよく言ったもんじゃ。
射命丸 文:
あっ! 私にも、もう一杯くださいよう!
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10分後
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二ッ岩 マミゾウ:
う~む、何度呑んでも新鮮な味わいがある……。
ついつい、もう一杯と酌が進んでしまうわい。
射命丸 文:
ですねぇ。むしろ、呑むたび
深みにハマっていくというか……って、あれ?
射命丸 文:
ああーっ!? お、鬼好みが、空に……!
わ、私の、大スクープがぁ~~……。
二ッ岩 マミゾウ:
せっかく望外に得た酒も
吞んでしまえば水と変わらんのう……。