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輝針城
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鬼人 正邪:
雲ひとつない……、なんとも退屈な空だ。
少名 針妙丸:
そう? 透き通るように
きれいな青い空じゃない。
鬼人 正邪:
ふっ、私には、血のように
どす黒い赤色に見えるけどな。
少名 針妙丸:
また、そんなしょーもないこと言ってー。
素直じゃないんだから。どう見たって青でしょ。
鬼人 正邪:
くくっ。あながち冗談でもないんだけどな。
少名 針妙丸:
ん? どういうこと?
鬼人 正邪:
同じ色を見ていると思っても、自分と他人とでは、
見えている色は違うかもしれない……。
鬼人 正邪:
たとえば、赤を青として認識しているかもしれない、
……って考えがあるらしいんだよ。
少名 針妙丸:
つまり、同じものを見ていても、
自分と他人とでは違う景色を見ているってこと?
少名 針妙丸:
ふーん……。でも、そうか。あのひっくり返す異変を
起こした時の、私たちみたいね……。
少名 針妙丸:
あの時の私たちは、目的は同じでも、
動機はまったく違っていたもの。
少名 針妙丸:
けど、いまは正邪と同じ景色を
見られていると思ってるよ。私は。
鬼人 正邪:
……どうかな。お前が見ている私と、
私が見ている私自身も、まったく違う。
鬼人 正邪:
ま、それでもいいなら、お前が生み出した
虚像の私と、せいぜい仲良くな。
少名 針妙丸:
たとえ虚像だとしても、私にとって鬼人正邪は、
いま目の前にいる、お前だけだよ。
少名 針妙丸:
だから、これからもよろしくね。
鬼人 正邪:
……ちっ。
鬼人 正邪:
は~あ、しょうがねえな。もうしばらく、
小人に付き合って、空でも眺めるとするか……。