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人間の里
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鈴仙・優曇華院・イナバ:
おばあさん、こんにちは。
お薬お届けにまいりましたー。
里の老婆:
ああ、いつもありがとうねぇ……、ひぇっ!?
今日は、薬は遠慮しておくよ。また今度来ておくれ!
鈴仙・優曇華院・イナバ:
え!? ちょ、おばあさん待って!
どうしたのかしら、あんなに慌てて……。
里の男性 :
おお、薬売りさんか! そんじゃ、
今日はこれとこれを……って、うひゃああ!?
鈴仙・優曇華院・イナバ:
ええっ!? また!?
な、なんで逃げるのよー!?
鈴仙・優曇華院・イナバ:
もうっ。なんなのよ、みんなして……。
これじゃ、薬を売るどころじゃ……。
純狐:
ずっと見ていたけど、
薬って案外、売れないものなのね。
純狐:
あの薬師のお手製なら、効能は確かでしょうに。
人間たちも見る目がない……。
鈴仙・優曇華院・イナバ:
あ……、あんたのせいかー!
鈴仙・優曇華院・イナバ:
もしや貴方、
今日ずっと私のことを追い回してましたね!?
純狐:
ええ。
貴方が何をしているのか気になって。
鈴仙・優曇華院・イナバ:
みんなが逃げていったのは、
この人の気配におびえていたからなのね……。
鈴仙・優曇華院・イナバ:
おかげで、ちっとも薬が売れなかったじゃないですか。
なんなんですか、もー。
純狐:
悪いことをしてしまった。
私はただ、興味があっただけなのに。
鈴仙・優曇華院・イナバ:
うーん……そんなに薬売りに興味があるなら、
私の手伝いでも、やってみます?
鈴仙・優曇華院・イナバ:
人手はいくらあってもいいですし、
私の目が届く範囲でなら……。
純狐:
興味がないわ。薬売りには。
鈴仙・優曇華院・イナバ:
は、はぁ~? 貴方、興味があるって
言ったばかりじゃない。
純狐:
私が興味を持っているのは、鈴仙・優曇華院・イナバ。
貴方自身よ。
純狐:
地上に堕ちた月の兎なんて、
何をやってたって、面白いに決まっているもの!
鈴仙・優曇華院・イナバ:
は、はぁ……そうっすか。
どうせなら、迷惑をかけないでほしいんですが……。
鈴仙・優曇華院・イナバ:
(でもこの人たしか、もう千年以上も
月に復讐し続けているのよね……)
鈴仙・優曇華院・イナバ:
(それを考えたら、このくらいの迷惑は
全然ましなほうなのかしら……)
純狐:
やっぱり指が綺麗ね。
こんな手で月の兵隊が務まったの?
鈴仙・優曇華院・イナバ:
うわっ、何!?
急に触らないでもらえますか!?
純狐:
では、引き続き少し離れて観察しましょう。
いつ薬が売り切れるのか、楽しみだわ。
鈴仙・優曇華院・イナバ:
ああもう……。お師匠様、私はこの人を
どうしたらいいんでしょうか……。