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人間の里
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純狐:
さあて、今日はどこかの
呉服屋にでも行ってみようかしら。
菅牧 典:
すみません、ちょっとよろしいですか?
純狐:
ん? 何かしら、私に用でもあるの?
菅牧 典:
はい、そうです。貴方様のお力を、
このか弱い管狐に貸していただけないでしょうか。
菅牧 典:
(この女……。おそらくは、月の都を
何度も襲撃しているという、例の神霊だろう)
菅牧 典:
(こいつの力を使えば、もめ事をたくさん
起こせそう。ふふ、想像するだけで楽しいわね)
純狐:
力を貸せ、か……。行きずりの相手に対して、
ずいぶんとぶしつけな物言いだな。
菅牧 典:
これは失礼を。ですが、話を聞けば
貴方様もご興味を持たれるかと。
菅牧 典:
なんせ、月に関する話なのです。
さる商家の末っ子が、月からの使者に騙され……
純狐:
……つまらない。
それだけなら、私は失礼するわ。
菅牧 典:
えっ!? で、では別の件について、
ご助力いただけないでしょうか!
菅牧 典:
(おかしい。月に恨みを持っているはずなのに。
それじゃあ、次の話題は……)
菅牧 典:
里に悪質な妖怪がまぎれ込んだようで。なんでも
美しい女に化け、母と息子を引き裂く……
純狐:
もう行くわね。
菅牧 典:
(ええ~、この話題も興味なしなの!?
どうしよう……、どんな話題なら)
菅牧 典:
お、お待ちください! え、えーっと、
こないだ、薬売りの兎がとんだ失敗を……。
純狐:
薬売りの兎! その兎がどうしたの?
菅牧 典:
あっ、ええ!?
こ、この話に興味がおありで!?
純狐:
ええ。あの玉兎……いや、元・玉兎絡みなら、
手を貸すこともやぶさかではないわ。
菅牧 典:
(過去の因縁に関わる話には反応せず、
この話に乗り気なんて……)
菅牧 典:
(この人、どういう感性してるの!?
まったくツボが読めないわ)
純狐:
それで? 話の続きは?
菅牧 典:
えっ、あっ、はい!
ええっと、その兎はですね……。