--------------
魔法の森
--------------
森近 霖之助:
おお、菫子君。いいところに来てくれたね。
実は、ちょっと聞きたいことがあるんだ。
宇佐見 菫子:
ん、何かしら? また外の世界について、とか?
森近 霖之助:
ああ。今読んでた本に「並行世界」って言葉が
出てきてね。これって、どういうことだい?
森近 霖之助:
この世界とは別に、並行して世界が存在する……、
鏡写しのような世界ってことかな?
宇佐見 菫子:
う~ん。近いけど、そうじゃないかも。
鏡みたいに、まったく同じわけじゃないし。
宇佐見 菫子:
並行世界はね、今ある世界とは何かが違うの。
すごく似てるけど、必ずどこかに違いがある。
宇佐見 菫子:
例えば、森近さんがお店を開いていなかったり、
能力を持っていなかったり、そんな違いかしら。
森近 霖之助:
似てるけど、こことは違う世界か。
なんとも興味深い……。
森近 霖之助:
そういう世界って、
どのくらいの数が存在してるんだい?
宇佐見 菫子:
一説では、無数に存在するって言われてるわ。
宇佐見 菫子:
「もしこうじゃなかったら」って違いの数だけ
世界が存在するなら、まあ納得よね。
森近 霖之助:
つまり、無数の可能性と同じ数、
世界が存在するのか。膨大だな……。
森近 霖之助:
いや、待てよ。それなら僕という存在も、
無数に存在することになるんじゃ……?
宇佐見 菫子:
なるでしょうね。森近さんだけじゃなく、
私も、他の人たちも、同じように。
森近 霖之助:
う~む、まるで夢の世界の幻想郷みたいだ。
その住人たちが、いっぱいいるようなものかな。
宇佐見 菫子:
うっ! そ、そうね、まぁ似てるかも……。
森近 霖之助:
無数に存在する自分か。
なんだか、奇妙な気もするけれど……。
森近 霖之助:
機会があるなら、ぜひ会ってみたいね。
どんなものを蒐集しているのか、話してみたい。
宇佐見 菫子:
……そんなにいいもんじゃないと思うわ。
自分自身との、邂逅なんてね。