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迷いの竹林(夜)
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吉弔 八千慧:
竹林をこうして歩くのも、悪くないですね。
……おや、あれは。
藤原 妹紅:
お前も、死んでしまったんだな……。
この脚が地面を駆けることは、もうないのか。
吉弔 八千慧:
(ずいぶんと立派な獣の死骸。あの霊は
使えるかもしれませんね。もっと情報を……)
吉弔 八千慧:
こんばんは。そちら、これから
埋めるところですか? 手伝いますよ。
藤原 妹紅:
ああ、助かる。
えっと、場所はこの辺でいいかな。
吉弔 八千慧:
この獣、とても大きくて強そうですね。
もしかして、貴方が飼っていた?
藤原 妹紅:
いいや、そんなのじゃない。ただ、こいつが
小さい頃から、竹林でよく見かけていたんだ。
藤原 妹紅:
でも、死んでしまったら、二度と会えない。
別れには、慣れてるはずなんだけど……。
吉弔 八千慧:
慣れてる? ああ、なるほど。
吉弔 八千慧:
(竹林には、死なない人間がいるらしいと聞いた。
蓬莱人、といったかな)
吉弔 八千慧:
(畜生界に落ちてきたら厄介ですね。
今のうちに、どんな相手か探るべきか)
吉弔 八千慧:
老いることも死ぬこともないというのは、
いったいどういう感覚なんですか?
藤原 妹紅:
寂しいもんだよ。周りからは妖怪扱いで、
幻想郷に来る前は流浪の生活だったし。
藤原 妹紅:
どいつもこいつも、私より先に死んでいく。
ま、ほんの少しの例外はいるがな。
吉弔 八千慧:
(使えなくなったものにいつまでも心を残し、
別れを寂しがる……)
吉弔 八千慧:
(なんて、非合理的。そんな感性を捨てずに
永遠を生きているなんて、難儀でおかしな奴)
吉弔 八千慧:
そうでしょうね。でも、動物も人間も、
死んでも消えるわけではありませんから。
藤原 妹紅:
そうだな。何かすごい奇跡でも起きたら、
私とこいつも、また会えるのかも……なんてな!
吉弔 八千慧:
ええ。……さて、埋め終わったようです。
この獣の墓は、こんなものですね。
藤原 妹紅:
ああ、手伝ってくれてありがとな。お前と話して、
なんだか元気が出てきたよ。……それじゃ。
吉弔 八千慧:
いろいろと情報は得られたけれど、
まったく共感できない人でしたね。
吉弔 八千慧:
でも、いつかこの獣の霊が
畜生界に来て、私の部下になったら……。
吉弔 八千慧:
もしかしたら、本当に彼女とまた会うことも
あるのかもしれないな。