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妖怪の山
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吉弔 八千慧:
ふう……。
そろそろ、報告が来る頃でしょうか。
八千慧の部下:
失礼いたします、八千慧様。
仰せつかっていた調査の報告にあがりました。
吉弔 八千慧:
……そうだな、まずは聞かせてもらおうか。
「化け狸の頭領、二ッ岩マミゾウについて」
八千慧の部下:
ええ。かの化け狸は、とんでもない大妖怪。
恐るべき相手ということが判明しました。
吉弔 八千慧:
ならばこそ、こうして調査を命じているのです。
続けなさい。いったい何がわかった?
八千慧の部下:
まず、大変な切れ者です。したたかで、
頭領としての風格にも満ちており……
八千慧の部下:
そして、化けるのが非常にうまい。いやはや、
惚れ惚れするほど素晴らしい妖怪ですなぁ!
吉弔 八千慧:
そうですか、わざわざご苦労さま。貴方の言葉、
どこまで鵜呑みにしていいかわかりませんが……
吉弔 八千慧:
少なくとも、化けるのがうまいことだけは、
確かなようですね? ……化け狸。
???:
ふぉっふぉっふぉ! さすがは
名だたる鬼傑組の組長。大した慧眼じゃのう!
二ッ岩マミゾウ:
いったい、いつから気づいておった?
聞かせてくれんか?
吉弔 八千慧:
最初からです。こういったことがないように、
部下の癖はすべて把握していますから。
二ッ岩マミゾウ:
ほほう、なかなかやる。その割には、
教育が足りておらぬようじゃがの。
二ッ岩マミゾウ:
少し前から、儂の周りをちょろちょろと
嗅ぎまわりよって……すぐに気づいたぞ?
吉弔 八千慧:
それは失礼しました。
今後の参考にしましょう。
二ッ岩マミゾウ:
あんな調査では何もわからんと思うてな。
儂みずから来てやったわ。感謝せい。
八千慧の部下:
吉弔様、ただいま化け狸についての報告に……
って、二ッ岩マミゾウ!? ど、どうしてお前が!
吉弔 八千慧:
ああ、今は下がっていなさい。
報告なら、本人から聞かせてもらうから。
二ッ岩マミゾウ:
ふぉーっふぉっふぉ、愉快な奴じゃ!
儂も、お前さんのことが気になってきたわい。
二ッ岩マミゾウ:
どこまで儂の腹の底を探れるかは、
お前さんの手腕次第じゃのう?
吉弔 八千慧:
ええ、じっくり教えてもらいましょうか?
二ッ岩マミゾウ、貴方自身について……ね。
八千慧の部下:
ひ、ひいっ!
失礼いたしました。お二方でごゆっくり!!
二ッ岩マミゾウ:
部下にあんな怯えた顔をさせて。
まこと、恐ろしい上司じゃのう。
吉弔 八千慧:
おや、貴方が恐ろしいから逃げたのでは?
私はまったくそんなこと……
八千慧の部下:
こ、怖かった~!! 吉弔様も化け狸も
殺気立ってて、ものすごい雰囲気なんだもの!
吉弔 八千慧:
…………茶でも飲みますか、化け狸。
互いを知るには、親睦を深めるのも大事ですし。
二ッ岩マミゾウ:
…………ああ、熱いのを一杯。
血沸く探り合いは、それからでもよかろう。