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畜生界
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驪駒 早鬼:
おい、そこにいるんだろ。
勁牙組組長を尾行だなんて……いったい何者だ?
埴安神 袿姫:
あらら、バレちゃった。なら仕方ないわね。
正面から行きましょうか。
驪駒 早鬼:
お前が直々に私の前に現れるなんて……。
まさか、私とサシでやり合うつもりか?
埴安神 袿姫:
ちがうちがう。戦いに来たわけじゃないわ。
私の目的は、貴方自身よ。
埴安神 袿姫:
ねえ、どうやって動いてるのか教えてくれない?
埴輪の移動速度を上げたいの。
埴安神 袿姫:
貴方の動きを真似させたけど、
うまくいかなくてね。直接、観察しにきたのよ。
驪駒 早鬼:
ふふん、私は勁牙組の、つよーい組長だからな。
埴輪なんかじゃ簡単に真似できないさ。
驪駒 早鬼:
お前の操る土人形たちと違って、
背中に翼も生えているしな!
埴安神 袿姫:
なるほど、その翼がポイントなのね!
それなら話が早いわ。ちょっと待ってて!
驪駒 早鬼:
翼が生えた馬……天馬型の埴輪が3体?
いったい、なんのつもりだ?
埴安神 袿姫:
これは新作の、高機動型埴輪よ。
私の見立てが正しければ、貴方より速く動けるはず。
驪駒 早鬼:
はぁ? その土塊が、私よりも速い?
そんなわけがないだろう。
埴安神 袿姫:
じゃあ、試してみます?
性能テストも兼ねて、勝負といきましょう。
埴安神 袿姫:
貴方と埴輪3体で短距離走をするのよ。
ほら、位置について……よーい、どん!
驪駒 早鬼:
ふっ、ただの土塊が、
私に付いてこられるかな……って、えぇ?
驪駒 早鬼:
お、おい! 埴輪が3体とも壊れたぞ。
いったい、どうなってるんだ。
埴安神 袿姫:
あちゃー、失敗だったか。
すぐに墜落しちゃったわね。
埴安神 袿姫:
1体目は、普通の馬埴輪に翼を付けただけだから
本体が重すぎてまともに飛べず……。
埴安神 袿姫:
2体目は翼を大きくしたけど、
やりすぎて1体目に引っかかっちゃったみたい。
驪駒 早鬼:
最後のこいつは、どうなんだ。
飛ぶ前に壊れたように見えたが……。
埴安神 袿姫:
最初の2体と比べるために、
3体目は軽くなるよう、肉抜きしたのよ。
埴安神 袿姫:
けどまさか、動き出した瞬間、自壊するなんて。
強度がぜんぜん足りなかったのね。
驪駒 早鬼:
やっぱり、しょせんは土の塊だな。
この私に追いつくなんて、絶対に不可能さ。
埴安神 袿姫:
いいえ、そんなことはない。試行錯誤を
重ねることで、造形物は必ず成長する。
埴安神 袿姫:
私は私の造形物で、必ず貴方を追い抜くわ。
そのときを楽しみに待っていてね。
驪駒 早鬼:
ははっ! 受けて立とう。
私が一番だと、何度だって証明してやる!