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妖怪の山
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飯綱丸 龍:
どうした、文?
頭を抱えて……。
射命丸 文:
ああ、飯綱丸様。
今、新聞記事の編集中なんですが……。
射命丸 文:
最近、記事の評判が芳しくないんですよ。
自分では面白いと思ってるんですけど……。
飯綱丸 龍:
ふーん、これが最新号か。
読ませてもらうよ。
飯綱丸 龍:
なるほど。
あー、はいはい……。
飯綱丸 龍:
文、私にとっておきのネタがあるぞ。
次号には、それを載せなさい。
射命丸 文:
あやや、大天狗様のネタ!?
これは重大スクープの匂いが……。
射命丸 文:
いったい、どんなネタですか!
教えてください!
飯綱丸 龍:
……そうして鴉天狗は、大天狗の命令のもと、
四方八方を駆け回り、ネタを探すのだった。
飯綱丸 龍:
以上が、とびっきりのネタの全容よ。
射命丸 文:
ええと、あの……ただの天狗の日常では?
しかも、私と飯綱丸様の内輪ネタじゃないですか。
飯綱丸 龍:
いいから、そのまま記事に載せてみなさい。
返事は?
射命丸 文:
は、はいぃ……。
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後日
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射命丸 文:
い、飯綱丸様……。
なんか例の記事、たいへん好評なんですけど……!
飯綱丸 龍:
ふふ、私の思った通りだ。
飯綱丸 龍:
前の号は、天狗以外の特集記事が多かった。
だから今回は、その裏を狙ったんだよ。
飯綱丸 龍:
この記事を書いているのはどんな天狗なのか。
読者は、そこにも興味を抱くと思ってね。
飯綱丸 龍:
私たちにとっては、ありふれた日常でも、
読者にとっては新鮮な情報のはずだから。
射命丸 文:
な、なるほど。たしかに、
その視点は考えていなかったかもしれません。
飯綱丸 龍:
目的とターゲットを決め、母集団をセグメントに分けて
よりピンポイントにリーチする。商売の基本だ。
飯綱丸 龍:
それに、事件の起きない日常を記事にできるなら、
何のネタが無い日でも、原稿を落とさずに済むだろ?
射命丸 文:
そ、そのとおりです……さすがは、我らが大天狗様。
私も、もっと気を引き締めなくては!
射命丸 文:
次は、飯綱丸様のお力に頼らず、
魅力的な記事を作れるよう、精進いたします!
飯綱丸 龍:
別に頼ってもいいんだけど……。
ふふ、まあ、頑張んなさい。