-------------- 妖怪の山 -------------- 古明地 こいし: あ、いたいたー。 こんにちは、天狗さん。 射命丸 文: あら、どうも。何かご用ですか……って、 この間の取材の件についてでしょうかね。 古明地 こいし: うん、そう! 私の記事は書けた? 射命丸 文: あー。まあ、書くことは書いたんですが……。 -------------- 一日前 -------------- 射命丸 文: さとりさん。 ひとつ、お聞きしたいことがあるのですが。 古明地 さとり: はい? ……ああ、宝物の寄せ集めから 助け出した時の、こいしのことですね。 古明地 さとり: ええ、そうです。あの一瞬、あの子の「目」は、 ……ほんのわずかですが、開いていましたよ。 射命丸 文: やはり、そうでしたか。 あの、心を読む第三の「目」が……。 射命丸 文: しかし、なぜでしょう。彼女は、自分自身で その目を固く閉じたと聞いていますけど。 古明地 さとり: 興味がわいたのかもしれません。自分のルーツを 探っていくことで、自分を取り巻く世界への興味が。 射命丸 文: 興味……、ですか。 古明地 さとり: あの子は、「目」を閉じることで、誰もが嫌う この心を読む力と、自分の心を閉ざしました。 古明地 さとり: それからは、他人から認識もされにくくなり、 世界との接点が希薄な存在になってしまった。 古明地 さとり: そんなあの子が、世界に興味を持ったとしたら。 もっと知りたいと思ったのだとしたら……。 射命丸 文: ……閉じた目を、開かねばならない? 古明地 さとり: すべては推測にすぎません。あの子の心は、 結局また閉じてしまったのですから。 射命丸 文: それなら、なぜ一瞬で目を閉じたのでしょうか。 嫌われ者に戻るのが嫌だったのか……。 古明地 さとり: あるいは、あの一瞬で見たいものが見られたから 満足したのかもしれませんね。 射命丸 文: 真実は闇の中……ですか。では、あの目が 開いていた裏が取れてしまったとなると……。 射命丸 文: やはり、この記事は世に出さない方がいいですね。 古明地 さとり: ……いいのですか。それは、貴方が 昨日書き上げた、あの子の記事でしょう。 射命丸 文: だって、せっかく心を読む恐ろしい妖怪が一人 役立たずになっているんですよ? 射命丸 文: なのに、目を開けたくなりそうな記事を出して 読者を不安にさせるわけにいかないですしねぇ。 古明地 さとり: ……そうですか。目を開けたあの子が 傷つかないかと心配しているのですね。 射命丸 文: ……は。 古明地 さとり: あの子が満足して目を閉じたのなら、自分は 余計なことをするまい。そう案じているのね。 射命丸 文: ……ああ、もう。まったく。 これだから、サトリ妖怪は嫌なんですよ。 射命丸 文: ……えーっと。 まあ色々ありまして、記事はボツになりました。 古明地 こいし: えぇ~~っ!? なんでなんで!? うぅ。私の記事、読みたかったよー……。 古明地 こいし: まあいいや。それより、じゃじゃーん! これ見て! 射命丸 文: カメラに手帳? どうしたんですか。 まるで、取材におもむく記者のようですけど。 古明地 こいし: そう! 今日はね、私があなたを取材するんだよー! 射命丸 文: あやややや。私の取材ですか。 古明地 こいし: うん。いっぱい写真撮っちゃうんだから! 射命丸 文: これは困りましたねぇ。新聞記者が そう簡単に撮られるわけにはいきません。 射命丸 文: というわけで、私は逃げます! もし追いつけたら、写真を撮らせてあげますよ! 古明地 こいし: あー! 待ってよー! もう、絶対に撮ってみせるんだから~!