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幻想昇竜戦 準決勝
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古明地 さとり:
ふふ……。
心を読まれる準備はできているのかしら。
犬走 椛:
……大丈夫。
この作戦なら、うまくいくはず……!
運営の河童:
それでは、対局を開始してください。
古明地 さとり:
……なるほどね。定石をなぞれば、考えなくて済む。
それなら、思考を読まれる心配もないわね。
犬走 椛:
…………。
古明地 さとり:
でも、それが崩されたら? たとえば……
こうなっちゃったら、どうするのかしら?
犬走 椛:
なっ……。
犬走 椛:
(こんな手は定石にはなかったはず。
いやでも、角で銀を取ったところで……)
古明地 さとり:
いきなり敵陣に打ち込むなんてしないはず、
……ですか。
犬走 椛:
し、しまった。心を……!
古明地 さとり:
やっと読ませてくれたわね。それじゃあ、
貴方が思う通りに、指してあげましょう。
古明地 さとり:
……なるほど、次は飛車を振ると。
それなら、次は金底の歩なのね?
犬走 椛:
あっ……!
犬走 椛:
(考えた手が読まれて、思う通りに指せない……。
と、とにかく、定石通りの流れに戻さないと!)
古明地 さとり:
……定石通りに、ね。
やってみなさい。やれるものなら、ね。
犬走 椛:
(……だ、ダメだ。全然、流れを戻せない。
常に先手をとられてしまう)
犬走 椛:
(とにかく今は、あの金を狙う角を退かせないと。
この歩で……、あっ!?)
犬走 椛:
(し、しまったー! うっかり違う場所に、
歩を打っちゃった! これじゃ桂馬が……)
古明地 さとり:
……桂馬が、なによ?
ど、どういうこと。うっかりですって!?
古明地 さとり:
ああもう!
それじゃあ、ここからどう指せば……!
犬走 椛:
……貴方、もしかして。
今まで、私の思考だけを頼りに指していたの?
古明地 さとり:
うっ……!
犬走 椛:
ならば、私は思考を捨てる!
考えず、自分の経験のみを頼りに……、指す!
古明地 さとり:
あっ! また、思ってもいない手を
指してきたわね!?
古明地 さとり:
目まで閉じて……。これじゃ表情からも
間違えたのかどうか読めないじゃない。
古明地 さとり:
……いいでしょう。そっちがその気なら、
私は自分の直感を頼りに指すわ!
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三十分後
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運営の河童:
犬走選手、持ち時間を使い切りましたので
ここからは、一手三十秒の秒読みになります。
犬走 椛:
……飛車と桂馬の合わせ技には、こう!
古明地 さとり:
飛車の一枚くらい、どうにでもなるわ。
と金を増やして、攻め続ける!
犬走 椛:
それでは、攻めが遅いですね。
飛車に銀の紐をつけて、王手です。
古明地 さとり:
仕方ありません、金を切って……ああ、でも
そうか、そうなるか。じゃあ玉を遠ざけて……。
犬走 椛:
なるほど、その手は間違ってはいません。
でも、龍で王手です。
古明地 さとり:
うそ! なら、歩を合駒に……。
ああ、いや……これは、もう凌ぎきれないのね。
古明地 さとり:
三手詰め、長くて五手詰めというところかしら。
だから、もう素直に心を読ませているのね。
古明地 さとり:
……参りました。思考を読ませない相手との
心理戦、なかなか面白かったわ。
犬走 椛:
ありがとうございました。いつもと違う雰囲気の
勝負ができて、私も楽しかったです。
古明地 さとり:
……ふふ。そう言ってもらえるなら、
頑張って将棋を覚えた甲斐があったわね。
古明地 さとり:
貴方なら、きっと優勝できるわ。
頑張ってね。
犬走 椛:
ええ、もちろんです!
河城 にとり:
お疲れ! やっぱり椛は、最強の棋士だねえ。
このままいけば、必ず優勝間違いなし!
犬走 椛:
ありがとう。……でも、ずいぶんと上機嫌だね。
何かいいことでもあったの?
河城 にとり:
椛が、さとりに勝ってくれたでしょ?
この結果で、客の半分が予想を外してね。
河城 にとり:
椛に賭けてたのは、私だけだったんだ。だから、
このまま椛が優勝すれば、大儲け確定だよ!
河城 にとり:
というわけで、私のためにも頑張ってね!
犬走 椛:
まったく、にとりってば……。
でも、ここまで来たからには優勝するよ。
八意 永琳:
決勝戦では、私が相手を務めるわ。
お互い悔いのないように、頑張りましょうね。
犬走 椛:
え、ええ、もちろんです。
全力で勝負しましょう。
河城 にとり:
椛、珍しく緊張しているみたいだな。
……決勝戦、大丈夫かなぁ。