-------------- 一時間後 -------------- 射命丸 文: さあ、決勝戦が再開しました。犬走選手は、 起死回生の策を閃いたのか? 注目の一手です! 射命丸 文: なんと、5一飛打ち! 取ったばかりの飛車を、さっそく使うようです! 河城 にとり: 銀で受けられてしまいましたが、金を活用して 銀得ぎんどくからの飛車角交換にできたようですね。 犬走 椛: よし、悪くない。金もまだ生きてる。 ここから、さらに攻めて王手を……! 射命丸 文: 犬走選手、さらに銀を取りつつ王に迫ります。 八意選手も、着々と反撃の準備を整えていますね。 射命丸 文: 5一角打かくうちで王手! かわされてしまいましたが、 犬走選手、角を成って次の攻めをうかがいます。 八意 永琳: さて……。どうやら攻めは途切れたようね。 それなら、今度はこちらから行かせてもらうわよ! 射命丸 文: 八意選手、6七歩成ふなりからの怒濤の反撃です! 犬走選手は、合駒あいごまを駆使して受けていますが……。 河城 にとり: 8五の角がしっかり利いていて、 思うように玉を逃がすことができていませんね。 犬走 椛: くっ、攻撃が激しい……! 射命丸 文: 犬走選手、駒を拾いつつ攻撃を凌ぎきった! しかし、依然として形勢は不利のまま……! 河城 にとり: 龍と馬。二枚の強力な攻め駒の、自陣への侵入を 許してしまいましたからね。これは厳しい……。 犬走 椛: (攻撃が途切れた……。あちらの持ち駒を考えると  今こそ反撃のチャンス。でも、どうやって?) 犬走 椛: (何か……何か、この窮地を切り開く一手は…… 2六飛車……違う、7三歩成は……遠すぎる) 犬走 椛: あっ……!? でも、この手がうまくいくとは……。 ……いや、もうこれしか残された手はない! 犬走 椛: 迷った時こそ、私は直感を信じる! 八意 永琳: 9八角打ち……。こちらの龍と角の交換が目的ね。 苦しい守りの一手、といったところかしら。 八意 永琳: でも、もう無理ね。……さて、それじゃ私は 龍を動かして、王手をかけにいきましょうか。 河城 にとり: ああ……。これはもう、 椛に、これ以上の逆転は無理だろうなあ。 射命丸 文: ……と、言いますと? 河城 にとり: 八意選手は……、おそらく次の手番の際、 9九龍で王手をかけてくるでしょう。 河城 にとり: 5九に銀を打っても、そこには馬が利いているので あまり意味のない合駒あいごまになってしまいます。 河城 にとり: 例え持ち駒の銀を二枚とも使って凌げたところで、 その場合は反撃のための駒が足りないのです。 射命丸 文: なるほど、かなり追い込まれているのですね。 ……って、おおっと!? 射命丸 文: 犬走選手、5四銀で王手をかけました! かわされましたが、次は2六飛車です! 八意 永琳: 桂馬をどかして逃げ道は作れたようだけど、 時間稼ぎにもなっていないわ。9九龍で王手。 八意 永琳: で、そこに逃げ込むから、歩で飛車をもらって ……さて、これであとは金打ちで詰みよ。 河城 にとり: くう、ここまでか……! 河城 にとり: あれ、椛。手が震えて……? 犬走 椛: ……いいえ、ここからです! 射命丸 文: な、なんとぉ!? 犬走選手、敗北寸前の状況から 連続で王手をかけ始めました!? 河城 にとり: 2二の銀が取られても、4三銀成ぎんなりでまた王手! しかも、この銀は9八角のひも付きだから取れない! 河城 にとり: ……んん? 9八角打ち? あれっ、この展開どこかで見たような……? 犬走 椛: これとか、相手の意表をつく良い手だね。 視線を誘導して、本来の狙いを隠し……。 河城 にとり: あっ、ああぁ~!? これって、 あのとき見てた新聞に、載ってたやつじゃん! 河城 にとり: そうか、あの一手は守りの手なんかじゃない。 限りなく王手飛車に近い手なんだ! 河城 にとり: 本当の目的は、4三銀成りからの連続王手! 龍取りと見せかけて、見抜けないようにしたんだ! 射命丸 文: な、なるほど……!? つまり、先ほどの一手は 究極の不意打ちだったようです! 射命丸 文: 奇跡のような一手で、優位に立った犬走選手! 2四歩打ち、3六桂打ちと攻めをつなぎます! 犬走 椛: 2四歩、王手! さあ、どうだ! 八意 永琳: ……ああ、そういうこと。 銀の数も、歩の数もぴったり足りる九手詰めね。 八意 永琳: これはもう、反撃の機会は巡って来ませんね。 ……参りました、見事です。 犬走 椛: あ、あぁ……。やった……! 犬走 椛: 勝った……。 永遠亭の天才に、勝ったあああ! 八意 永琳: 久しぶりの本気の盤上遊戯、楽しかったわ。 まさか、私が裏をかかれるなんて……。 犬走 椛: いえいえ、こちらこそ終始押されてばかりで。 ありがとうございました。また対局しましょう! 八意 永琳: ふふ……、次までに、 貴方に特化した対策を立てるとするわ。 犬走 椛: そ、それはちょっと、勘弁してください……! 射命丸 文: 八意選手の投了により、犬走椛選手が、 栄誉ある初代幻想昇竜位の座に輝きました! 射命丸 文: それでは準備が整い次第、表彰式に移ります。 皆様、今しばらくお待ちください!