-------------- 神霊廟 -------------- 物部 布都: そ、そんな。神霊廟が……。 物部 布都: 大炎上してしまうなんてー!! -------------- 数十分前 -------------- 物部 布都: ふっふ~ん、よしよし。 これだけあれば、十分であろう。 豊聡耳 神子: どうだ、準備の方は順調か? 物部 布都: あ、太子様! 万事順調です。 今、篝火かがりびに使う薪まきを組んでいるところでして。 豊聡耳 神子: 豊穣を祈る秋の火祭り、か。 例年、人間の里で行われているものだが……。 豊聡耳 神子: 今年は神霊廟が主催したいと 布都が言い出した時は、少し驚いたよ。 物部 布都: 祭りの話を聞き、何かやれぬかと思ったのです。 里の皆には、日ごろ世話になっておりますし。 豊聡耳 神子: 祭りが盛り上がれば、道教に興味を持つ者も 増えるかもしれない。引き続き、頼むぞ。 物部 布都: お任せくだされ! 火をつけることには、少々心得がありますゆえ! 豊聡耳 神子: ところで、布都よ。先ほどから見ていると、 どうも薪まきの数が多い気がするのだが……。 物部 布都: ふっふっふ。実は、そうなのです。 ひときわ大きな篝火を起こそうと思いまして。 物部 布都: 祭りで巨大な火が焚かれれば、きっと話題を呼び、 さぞかし多くの客が訪れることでしょう! 豊聡耳 神子: なるほどな。だが、火の用心は怠るなよ。 火は便利で美しく、そして危険なものだからな。 物部 布都: ええ、無論です。 それも、ちゃんと心得ておりますよ。 物部 布都: さて、準備はこんなところでしょうか。 試しに火をつけてみましょう。 物部 布都: それでは……、いざ点火ーっ! 豊聡耳 神子: おお、素早く火が広がって……。 実にいい。なかなか見事な篝火かがりびじゃないか。 物部 布都: う~ん。でも、想定より火力が弱いな。 もう少し高く燃え上がらせたいのだが、……ん? 物部 布都: 気のせいか? 今、炎の中に黒いものが見えたような……。 豊聡耳 神子: なっ! どういうことだ、これは!? 炎が、真っ黒に染まっていく……!? 物部 布都: し、しかもこの炎、 どんどん勢いが増しております! 豊聡耳 神子: すぐに消火しなければ、神霊廟に燃え移るな。 しかし、この火勢では……! 豊聡耳 神子: ……そういえば、道場にはあれがあったか! 布都、ここを頼むぞ! 私は中の者を避難させる! 物部 布都: しょ、承知いたしました! よし、消火を始め……ああっ、神霊廟に火が!? 物部 布都: 道場にいた者は皆、避難してきたが……。 まだ太子様が戻られない! ご無事なのか!? 豊聡耳 神子: 皆、待たせた。これを取りに行っていたんだ。 さあ、この龍の像を使えば、炎もすぐに……! 物部 布都: 太子様! いったい何を……って、え? 空が、どんどん暗く……? 物部 布都: うわーっ! 急に大雨がーっ!? 豊聡耳 神子: 雨を降らす龍の像、改良版だ。数分間、 限られた範囲に大量の雨を降らせてくれる。 物部 布都: み、見事に火が消えましたね。 ありがとうございます、太子様……。 物部 布都: その……まことに、申し訳ありません。 我のせいで、神霊廟が燃えて……。 豊聡耳 神子: なあに。建物など、また直せばいいことだ。 それよりも、気になるのはあの黒い炎だな。 豊聡耳 神子: 突如現れ、瞬く間に炎を黒く染めていった。 まるで、赤い炎を喰らっていくように……。 物部 布都: 火の勢いも尋常ではありませんでしたね。 鎮火できなければ、今ごろどうなっていたか……。 豊聡耳 神子: ……よし。人間の里へ向かうぞ。 物部 布都: えっ、里へ? 今からですか? 豊聡耳 神子: ああ。あちらでも、同じことが 起きているかもしれん。確認せねば。 物部 布都: なるほど、火の用心ですね! わかりました、この燃え残りを片付けたらすぐに! 物部 布都: おや? この焼け跡の下、何やら黒い線が……。 炭の跡か? いや、何かの紋様、か? 豊聡耳 神子: どうした布都? じっと地面を見たりして。 早く行くぞ。 物部 布都: あ、はい……あれ? さっきの紋様が消えておる。 見間違いか? いや、そんなはずは……。