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人間の里
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穣子の信者A:
日が暮れてから、もうしばらく経つぞ。
巫女様は、まだ戻られないのか?
穣子の信者B:
ああ。神様をお二人にお任せして、収穫祭の
準備はできたけどさ。この分じゃ、明日は……。
穣子の信者A:
穣子様……。私たちのことを……人間を、
お嫌いになってしまわれたのだろうか?
穣子の信者A:
もしそうなら、私たちはどうすれば……。
他の豊穣の神様に、祈りを捧げるしかないのか?
東風谷 早苗:
───その必要は、ありません。
穣子の信者B:
えっ。この声は……、うわっ?
東風谷 早苗:
どうか道を空けてください。これより、
豊穣の神、秋穣子様に奉納いたしますは……、
東風谷 早苗:
私ども二人が舞う、巫女神楽にございます。
ぜひ蔵を開け、その目でご覧くださいませ。
東風谷 早苗:
───巫女とは、かんなぎ。
古来より、神の力を借り、神と交信してきた者。
東風谷 早苗:
私たちは、語りかける。
時に祝詞で、音楽で。供物で、そして舞で。
東風谷 早苗:
貴方の言葉をお聞かせください。
私は、貴方を信じていますと。
東風谷 早苗:
貴方たちがいる限り、私たちは何度でも、
そちらとこちらの縁を結ぶ。この営みを守り続ける。
東風谷 早苗:
だから……、
穣子の信者A:
ああ、あの姿、なんて素晴らしい。
これが、巫女様の神楽なのか……。
穣子の信者B:
すごい、こんなの初めて見たよ。
穣子様と静葉様にも、ぜひお見せしたいなあ。
東風谷 早苗:
だから……、穣子さん、
そんな暗い所から、早く出てきてくださいね。
秋 穣子:
そんなにお願いされたんじゃ、仕方ないわね。
秋 静葉:
ええ、私たちを愛する人間たちがいるのだから。
秋 静葉&秋 穣子:
幻想郷の秋を、始めましょう!
博麗 霊夢:
はー……、つっかれたぁ~。
もう、こんなの二度と御免だわ。
東風谷 早苗:
え~、よかったじゃないですか? 作戦は大成功!
神楽が気になって、穣子さん出てきてくれましたし。
東風谷 早苗:
巻き込まれていた静葉さんも、さっき、
仕事に戻ると言って、山に向かいましたよ?
博麗 霊夢:
それは別にいいのよ。問題は、穣子が蔵から
出てきたあと、神楽を何度もねだってきたこと!
博麗 霊夢:
またへそを曲げられたらたまらないと思って、
あれから何回踊ったことか……。
博麗 霊夢:
ていうか、あいつ、ケロッとして信者に
囲まれてるけど、結局なんで蔵に籠ってたのよ?
鈴仙・優曇華院・イナバ:
いや~、お二人とも。素晴らしい仕事でしたね!
鈴仙・優曇華院・イナバ:
巫女は踊り、神は蔵から顔を出す……。
まさに、岩戸伝説を彷彿とさせる光景でした。
博麗 霊夢:
永遠亭の兎?
あんたが里に長居してるなんて、珍しいわね?
鈴仙・優曇華院・イナバ:
ええまあ、信者の中に常連さんもいたから、
明日のお祭りが気になってね。
東風谷 早苗:
そうだったのですか。さっき信者さんに
聞きましたが、収穫祭は無事開催だそうですよ!
博麗 霊夢:
私たちもどーぞって、熱心に誘われたわね。
ま、働いた分ぐらい、もてなされてもいいかしら?
鈴仙・優曇華院・イナバ:
うんうん、それがいいわね!
でも、神様の機嫌が直って、本当によかった。
鈴仙・優曇華院・イナバ:
まさか、私が信者にあげた植物成長促進薬が、
あれほど神様を怒らせるとは……。
東風谷 早苗:
あはは、それは~……、え?
鈴仙・優曇華院・イナバ:
薬をまいた後に知ったんですけど、
穣子さんは、農法へのこだわりが強い方でして。
鈴仙・優曇華院・イナバ:
とにかく嫌いだったんです、農薬が。
いやあ驚きましたよ、まさか蔵に籠るなんて。
博麗 霊夢:
あ、あんたねえ……。それを黙って、
私たちに収穫物を持ってこいとか言ったわけ!?
鈴仙・優曇華院・イナバ:
だ、だって、常連さんが秘密にしてって……。
鈴仙・優曇華院・イナバ:
でも! 私だってずっと頑張ってたんですよ!?
そりゃあ、お二人という保険はかけましたけど……
鈴仙・優曇華院・イナバ:
何度も説得を繰り返して、今日の夕方には、
お祭りの日は蔵を出るって約束もとりつけられたし!
東風谷 早苗:
え……ええっ!? じゃ、じゃあ、私たちが
今回の件を引き受けてなくても、穣子さんは……
鈴仙・優曇華院・イナバ:
出てきてた……かも?
博麗 霊夢:
ちょ、ちょっとぉ~……!
それじゃあ私たち、くたびれ損じゃないのよ!
鈴仙・優曇華院・イナバ:
いやいや、そんなことないですって。さっきの
貴方たちを見て、神様も信者も知ったはず。
鈴仙・優曇華院・イナバ:
幻想郷には、素晴らしい巫女がいる。
二人がいれば、ここの信仰は安泰だってね。
東風谷 早苗:
鈴仙さん……。
東風谷 早苗:
いい感じに言ってますけど、コノヤローって
気持ちがすごいです。弾幕打っていいですか?
鈴仙・優曇華院・イナバ:
やっぱりダメかーー!
博麗 霊夢:
はー、なんか身体だけじゃなく、
心までどっと疲れたわ。……あら?
博麗 霊夢:
紅葉が、風に乗って……。
静葉、さっそく落葉の仕事を始めたのね。
博麗 霊夢:
まあ、これで明日には、焼き芋も
焼けるようになるだろうし……、いいとするか。