--------------
人間の里のはずれ
--------------
伊吹 萃香:
えーっと、このへんの桜がそうか。
そーっれ! よっと!
八雲 藍:
萃香が、桜に春を与え始めた?
寅丸 星:
そうです。あの桜たちはもともと、
すべて病気に罹っていました。
寅丸 星:
ここ以外にも、実は幻想郷中に
桜の病気が発生していたようです。
八雲 藍:
幻想郷中に、ですって?
伝染病が、爆発的に流行していたということ?
寅丸 星:
ええ、そのようです。あの鬼……萃香さんは、
それらの木に春を配って回っているようでした。
八雲 藍:
なるほど。それで春を集めて、幻想郷中を
転々としていたのか。でも、どうして?
寅丸 星:
博麗神社の木に春が撒かれていることに気付いて、
もしや、と思って調べることにしたんです。
寅丸 星:
その時、ちょうど橙さんと鉢合わせたので、
各地を見てきてほしいと頼みました。
橙:
うん。そしたら色んな場所の桜の木に、
手当てをした跡と、春が撒かれた跡があったの。
寅丸 星:
私は命蓮寺に訪れた人間から、ここに
病気の桜があると相談されていたので……。
寅丸 星:
待っていれば萃香さんが来るのではないかと
橙さんと共に、向かっていたんです。
八雲 藍:
なる、ほど……。でも、
どうして萃香が、春を配っているのでしょう?
伊吹 萃香:
ちょっと、そこ。いつまで隠れてるつもり~?
言っておくけど、バレバレだからね?
寅丸 星:
すみません。また逃げられてしまっては
埒が明かないので、機会をうかがおうと……。
伊吹 萃香:
もう逃げなきゃいいんでしょ。
それで、私に何か用?
八雲 藍:
貴方は……幻想郷中の病気の桜に
春を分け与えていたのか。
伊吹 萃香:
そうだよ。桜が咲かなければ
宴会はできないぞって、霊夢に脅されてね。
伊吹 萃香:
私の能力は、春を萃めて配るのに
ぴったりだからって、こき使われてたわけ。
八雲 藍:
実は、マヨヒガの桜も同じ状況なんだ。
私たちも、そのために春を集めていて……。
八雲 藍:
あの時、魔法の森に春があふれていたのは
貴方がいたからだったのか。
八雲 藍:
そうとも知らずに春を奪うような真似を……。
申し訳ないことをした。
伊吹 萃香:
ああ。なーんだ、そうだったんだ。
マヨヒガの桜も病気とは知らなかったよ。
八雲 藍:
できれば、春を分けてはもらえないだろうか?
どうしても桜を咲かせたいんだ!
伊吹 萃香:
うーん……霊夢との約束に、マヨヒガは
入ってなかったからなあ。メリットもないしぃ。
八雲 藍:
お礼はする! どうか……!
伊吹 萃香:
お礼ねぇ……じゃ、霊夢にこき使われてる分、
あんたが払ってくれるんならいいよ。
伊吹 萃香:
そうだなー。花見の期間は毎日宴会開いてー、
酒とおつまみも用意して、お酌もしてくれてー。
伊吹 萃香:
もちろん、紫の命令があっても、こっち優先ね!
八雲 藍:
なっ! 紫様の命令は絶対だ!
そんな条件、飲めるわけがない!
伊吹 萃香:
ま、式神ならそう言うしかないよね。どうせ、
桜を咲かせたいってのも、紫の命令なんでしょ?
伊吹 萃香:
私が春を渡さないと、マヨヒガの桜は咲かない。
けど、そうしたら紫の命令に従えなくなる。
伊吹 萃香:
こんな時、どうするんだい?
紫の命令に従うしかない、あんたはさあ。
八雲 藍:
くっ、そんな……この状況じゃ、
私にはどうすることも……。
橙:
ちょっとちょっと! 黙って聞いてれば、
あんまりじゃない!
橙:
式神が主人の命令に従うのは、当たり前なのよ!
それなのに、そんな条件ひどい!
八雲 藍:
ちぇ、橙! お前、何を……。
伊吹 萃香:
そっちの事情なんて、私には関係ないよ。
何を言ったところで……。
橙:
ええーい、だったら私たちと勝負して!
こっちが勝ったら、春を渡してもらうよ!!
八雲 藍:
勝負って……橙、相手はあの山の四天王だ、わかっているのか?
橙:
じゃあ藍様は、ここで諦めていいの?
紫様と一緒に、お花見するんでしょ!?
八雲 藍:
橙……。
確かに、その通りだね。
八雲 藍:
……伊吹萃香、私たちと勝負しなさい。
こっちが勝ったら、言うことを聞いてもらう!
伊吹 萃香:
あっはっは! そう来るか、面白い。
その勝負、受けて立つ!