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マヨヒガ 宴会当日
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伊吹 萃香:
いやー! あのあと里の人間たちから、
桜のお礼にーって、色々もらっちゃったよ!
伊吹 萃香:
酒やつまみも、こーんなにたくさん!
ほらほら、あんたのおかげだよ。もっと呑みな!
寅丸 星:
い、いえ、仏教徒なので、お酒は、結構です。
あの後、なんだかんだ信者も増えましたし……。
寅丸 星:
私も人々の模範となるよう、戒律を守らなくては。
……って、ああ! 勝手に注がないでください!
伊吹 萃香:
まぁまぁ。今夜は無礼講だよ。
ちょっとくらいバレないって。
寅丸 星:
いえ、今は忍耐の時。我慢、がまん……。
ううん、ちょっとだけなら……。
八雲 藍:
お二人とも、楽しんでおられますか。
新しいおつまみです。どうぞ。
伊吹 萃香:
おお。これは、油揚げのおつまみ? もぐもぐ。
うーん、お酒に合うね! 美味い!
八雲 藍:
先日は、ありがとうございました。
お陰様でこの通り桜も満開。花見も大盛況です。
伊吹 萃香:
こーんな桜があるなんて、知らなかったよ!
これ、一から植えたのかな? すごいね。
寅丸 星:
本当に綺麗ですね。
でも、どうしてここに、これだけの桜を?
八雲 藍:
ああ、それはですね……。
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過去のマヨヒガ
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八雲 紫:
へぇ。ここが藍の式神の棲家なの?
なんだか寂しいトコねぇ。
八雲 藍:
そうですか?
化け猫の棲家なんて、こんなものでしょう。
八雲 紫:
ふーん……。ちょっと待ってなさい。
八雲 紫:
さあ、藍。これを植えて。
八雲 藍:
これは、苗木?
ここに植えればよいのですか?
八雲 紫:
ええ、そうよ。
まだまだあるから、手早くお願いね。
八雲 藍:
ふぅ。相当数植えましたが……、
これらはいったい、何の木です?
八雲 紫:
これは、桜よ。成長して、春になれば、
このあたり一帯は、さぞ華やかになるでしょう。
八雲 藍:
桜……?
八雲 紫:
桜が綺麗に咲いたら、人も妖怪もみんな、宴会をするのよ。
……そうだ、それを毎年の恒例行事にしましょう。
八雲 紫:
という訳で、この桜は枯らさないように。
貴方が育てるのよ、藍。
八雲 藍:
私が、ですか? 花を育てる?
八雲 紫:
そうよ。この桜は、藍、貴方が育てるのです。
私からの命令よ。
八雲 藍:
はぁ……わかりました。八雲紫、貴方の命令です。
必ずや、立派な木々に成長させてみせましょう。
八雲 藍:
ええと、肥料を撒いて……ふむふむ。
害虫駆除も必要なのか。
八雲 藍:
思いの外、大変だな。
まさかこの私が、木の世話をすることになるなんて……。
八雲 藍:
うん。ぽつぽつ花が咲くようになってきた。
けど、お花見までは、まだ遠いか……。
橙:
わぁ~綺麗! 藍様、紫様!
マヨヒガに、桜吹雪が舞ってますよ!
八雲 紫:
本当、いい景色になったわね。
藍、よくがんばりました。
八雲 藍:
ありがとうございます。
紫様の式神たるもの、当然です。
八雲 紫:
それじゃあ今年のお花見は静かに、三人で。
来年からは人を呼んで、賑やかにしたいわね。
八雲 藍:
はい、ただいま準備いたします!
八雲 藍:
……それ以来、マヨヒガでは
毎年宴会を開くことになったのです。
寅丸 星:
なるほど。この宴会は、紫さんとの
大事な約束も兼ねていたんですね。
伊吹 萃香:
けど、今年は肝心の紫がいないようだけど……。
何かあったのかい?
八雲 藍:
おそらく、お忙しいのでしょう。この宴会には、
お見えになると思っていたのですが……。
伊吹 萃香:
ふーん……。ま、あいつのことだから、
きっと元気にやってるでしょ!
八雲 藍:
そうですね、あの方なら、必ず。
……では、ごゆっくり。
寅丸 星:
そう言えば、例の桜の病気について、
命蓮寺で調べてみたのですが……。
寅丸 星:
どうにもおかしいんですよね。病気の
発生条件も揃ってなければ、前兆もなかった。
伊吹 萃香:
うん? どういうこと?
ただの流行り病じゃないのかい?
寅丸 星:
現れたのが突然すぎて……まるで、幻想郷以外の
場所から突然運び込まれたようだ、って。
伊吹 萃香:
別の場所から、ねえ……。
ふーむ。なんだか、きな臭くなってきたなぁ。
橙:
紫様、来ませんでしたね……。
八雲 藍:
今の用事が片付けば、きっと来年は
来てくれるさ。
橙:
……そっか。藍様、つぎ紫様に会ったら
言っといてくださいね! 来年は絶対って!
八雲 藍:
はい、はい。伝えておくよ。
……来年は絶対、か。
八雲 藍:
……橙の前ではああ言ったものの、もしかしたら
紫様の身に、何かあったのかもしれない。
八雲 藍:
ひょっとしたら、桜の病とも何か関係が……?
いや、さすがに考えすぎか。
八雲 藍:
あれ以来、紫様からのご連絡はない。
紫様、どうかご無事で……。
八雲 藍:
あの時いただいた、もう一つの命令。
必ずや、遂行してみせましょう。
八雲 藍:
来年はまた、三人揃って
お花見ができますように。
???:
……藍。あのこと、くれぐれも頼んだわよ……。