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迷いの竹林
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稀神 サグメ:
(八意様との会談も済んだ。あとは帰るだけね。
……ん? 何かの気配がする?)
稀神 サグメ:
(近い。ただの獣というわけではなさそうね。
念のため、様子を見にいきましょう)
村紗 水蜜:
しまった……。思ったより数が多かった!
どこまで追いかけてくるのよ!?
稀神 サグメ:
(あれは、ユメミタマ! 数は多いけど、
浄化できない数ではないわね……)
村紗 水蜜:
え!? ちょっと、ここは危険ですよ!?
稀神 サグメ:
(ダンマクカグラ……、
どれほど効くか、試してみましょう!)
稀神 サグメ:
(一匹、取り逃がしてしまった……。
こちらに向かってきたはずだけど?)
村紗 水蜜:
あれだけの数を、一瞬で!? ……はっ!
助かりました! ありがとうございます!
稀神 サグメ:
(ああ、穢らわしい地上の妖怪か。
別に助けるつもりはなかったのだけど)
稀神 サグメ:
いえ、そちらは大丈夫そうで……っ!
稀神 サグメ:
(しまった……。つい返事をしてしまった!)
村紗 水蜜:
私は大丈夫で……あ、違った!
ええと、大丈夫じゃないです!
稀神 サグメ:
(……んん?
なぜ言い直す必要があったの?)
村紗 水蜜:
あ、大丈夫じゃないっていうのは、ウソです。
今日は、ウソをついてもいい日なんですよ。
村紗 水蜜:
仏の教え的に本当はダメなんですけど、今日だけは
エイプリルフールっていう外の世界のお祭りで。
稀神 サグメ:
なるほど……。
稀神 サグメ:
(外の世界の文化か……。妙な催しね)
村紗 水蜜:
あっ、ユメミタマも浄化したし、戻らないと!
貴方も外まで出るなら、一緒に行きますか?
稀神 サグメ:
え、ええ。
稀神 サグメ:
(本当かウソかはともかく、彼女に声をかけた以上、
何か起こるかもしれない。一緒に行かないと)
聖 白蓮:
村紗! 帰りが遅いので、心配しましたよ。
何かあったのですか?
村紗 水蜜:
ご心配をおかけしました!
ユメミタマの数が、思ったより多かったので……。
村紗 水蜜:
ですが、こちらの方が助けてくれました!
それは素晴らしいダンマクカグラでしたよ!
稀神 サグメ:
(竹林を出るまで、何も起きなかった?
能力が効かないとは考えにくいけど……)
聖 白蓮:
そうでしたか! 村紗を助けていただき、
ありがとうございました。……あら?
稀神 サグメ:
(問題はなさそうだし、それなら帰るだけね。
あまり穢れとは、深く関わりたくはないし)
稀神 サグメ:
……私は、これで失礼します。
聖 白蓮:
お待ちください!
貴方、ユメミタマに憑りつかれていますよ?
稀神 サグメ:
……私が、ですか?
稀神 サグメ:
(まさか、さっきのダンマクカグラのときに?
何も感じないけど……)
聖 白蓮:
ええ。気配を感じます。
その割には落ち着いているようですが……。
聖 白蓮:
何か、心当たりはありませんか?
どこか、普段と違うことがあるとか。
稀神 サグメ:
(思い当たることと言えば……、
声を掛けたのに、何も起きなかったこと?)
稀神 サグメ:
……まだ憶測の段階ですが、
私の力が封じられている気がします。
聖 白蓮:
そうでしたか。よろしければ、
私が浄化してさしあげましょうか?
稀神 サグメ:
(確かに、どんな悪影響が出るかわからない。
浄化した方がいいのでしょう。でも……)
稀神 サグメ:
(能力が使えなければ、自由に会話ができる!
この機を逃すわけにはいかない!)
稀神 サグメ:
……いえ、お気持ちだけで結構です。
自分で対処しますから。
聖 白蓮:
ですが、ユメミタマを放っておくわけには……。
何かあってからでは、遅いのですよ?
稀神 サグメ:
承知しています。
ですが、まだ目立った問題は起きていない。
稀神 サグメ:
ならば、この機会にユメミタマについて、
自分の身体で研究しておきたいのです。
稀神 サグメ:
(ウソは言ってない。実際、理屈がわかれば
能力のコントロールも夢ではない!)
聖 白蓮:
しかし、うーん。では、こうしませんか?
今日ではなく明日浄化する、というのは。
聖 白蓮:
貴方は、ユメミタマが危険だと理解されている。
ならば、その研究も一日が限界でしょう。
稀神 サグメ:
確かに、貴方のおっしゃる通りです。
明日になったら浄化すると、約束しましょう。
稀神 サグメ:
(よし、猶予は手に入れた!
さっそく人里へ寄り道を……)
聖 白蓮:
お待ちください!
稀神 サグメ:
今度は、いかがされましたか?
他にも何か懸念されることが?
聖 白蓮:
里に行くなら、その羽を隠す方がよろしいかと。
お寺においでください。服をお貸しします。
稀神 サグメ:
……ありがとうございます。
稀神 サグメ:
(浮かれすぎね。私としたことが……。
ここは、素直に従いましょう)