今泉 影狼:
アオォ―――ン…………
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迷いの竹林
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今泉 影狼:
はーあ……もうすぐ十五夜か。
私にとっては、つらい日ね。
今泉 影狼:
強い妖力に満ちた月の光は、
私の……狼女の本性を、引きずり出してしまう。
今泉 影狼:
お香も焚きたくないくらい嗅覚は鋭くなるし、
なにより、獣みたいに毛深くなるから最悪だわ。
今泉 影狼:
月の妖力をありがたがるヤツもいるけど、
私には、ちょっと理解できないなぁ。
今泉 影狼:
そのうえ、そんな満月をわざわざ見ようとする
お月見だなんて、もっと……
藤原 妹紅:
狼女のあんたもやるのか? 十五夜のお月見。
今泉 影狼:
わっ、ひゃっ!?
今泉 影狼:
なに、誰…………に、人間!?
な、なんで、こんな所に……!
藤原 妹紅:
藤原妹紅、この辺りに住んでる。あんたもそうだよな?
こうして、ちゃんと顔を合わせるのは初めてだが。
今泉 影狼:
あ……、聞いたことある。
そっか、貴方が妹紅なのね。私は今泉影狼。
藤原 妹紅:
よろしく。それで、今度の十五夜にお月見やるの?
まあ狼女といえば満月だもんな。
今泉 影狼:
え、あ……。そ、そういうわけじゃなくて……。
今泉 影狼:
いや、お月見はやるんだけど、
私は別に乗り気じゃないっていうか、その。
藤原 妹紅:
……んん?
藤原 妹紅:
なるほどね。草の根妖怪ネットワークの仲間と
お月見会をやることになったのか。
藤原 妹紅:
でもあんたは、満月の夜に変身してしまうから、
できることなら行きたくない、と。
今泉 影狼:
だ、だって、すっごく毛深くなるのよ!?
あんな獣臭い姿、誰にも見せられないわ!
藤原 妹紅:
行かなきゃいいじゃないか。これまでだって、
なんだかんだ理由を付けて行かなかったんだろ?
今泉 影狼:
そ、そうなんだけど!
今泉 影狼:
でも、今回はダメなの。
だって……今回は、私が幹事なんだもの。
藤原 妹紅:
じゃあ、やるしかないんじゃないか?
そろそろ準備を始めないと、十五夜に間に合わないよ。
今泉 影狼:
わかってるわよ! でも……。
今泉 影狼:
今まで一度も、お月見したことないから
何をどう準備すればいいのか、わからなくて……。
藤原 妹紅:
あー。結局は宴会なんだし、酒と団子があれば
それでいいと思うけどねぇ。
藤原 妹紅:
そういうことなら、永遠亭に行ってみるといいよ。
何を準備したらいいか、教えてもらえると思う。
今泉 影狼:
永遠亭?
って、この竹林の奥にある、あのお屋敷?
藤原 妹紅:
そうそう。ちょうど、兎たち総出で
十五夜の準備をしている様子だったし。
藤原 妹紅:
あそこ、いつも盛大にお月見してるから、
いろいろ詳しいと思うぞ。
今泉 影狼:
へぇ……。今まで、あんまり
近づいたことなかったけど……。
今泉 影狼:
確かに、詳しい人に聞くのが一番よね。
わかった、行ってみるわ。
藤原 妹紅:
そうするといい。案内は必要かい?
今泉 影狼:
いらないわ。
私も、この竹林に住む妖怪だしね。
藤原 妹紅:
それじゃ、がんばれよ。
いいお月見会になるといいな。
今泉 影狼:
ありがとう。
……あ、ねえ。貴方は? お月見するの?
藤原 妹紅:
お月見? ……いや、しないよ。
今泉 影狼:
……親切なひとね。
初対面の私に、いろいろ教えてくれて。
今泉 影狼:
よし! さっそく永遠亭に行ってみよう。
お月見会を成功させるため、がんばるぞ!