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玄武の沢 崖下
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今泉 影狼:
い、いたた……。
あちこちぶつけた……。
今泉 影狼:
あの崖から落ちたのか。ま、ちょうどいいわ。
このまま、沢のほとりを探しましょう。
今泉 影狼:
なかなか見つからないわね。
匂いもないし……。
今泉 影狼:
……ん? 何か、上流から流れて……
まさか子供!?
女の子:
た、すけ……! がぼっ……。
今泉 影狼:
まずい、溺れてる!
急いで引き上げないと!
今泉 影狼:
よっ、はっ!
今泉 影狼:
……ふぅっ。さすがに変身した姿だと、
子供一人つかんで跳ぶのも簡単ね。
今泉 影狼:
大丈夫? ええと……
貴方が、先生の言っていた迷子よね?
今泉 影狼:
そうそう、貴方の下駄を預かっているの。
返すわね、これ。裸足じゃ危ないし。
女の子:
う……ぁ……。
今泉 影狼:
(……震えてる。そうよね、気持ち悪いわよね。
こんな毛むくじゃらの狼女なんて)
今泉 影狼:
そんなに怯えなくても、なんにもしないわよ。
これ以上近寄ったりもしない。だから……、
女の子:
はっ……ひっ、うぅ……!
今泉 影狼:
(しゃべれないくらい歯をがちがちさせて……。
顔も唇も真っ青だし……、ん?)
今泉 影狼:
……ちょ、ちょっと待って。手を貸して!
貴方、もしかして……!
今泉 影狼:
やっぱり! 身体が冷え切ってるじゃない!
今泉 影狼:
(秋の川は冷たい。そのうえ、今は夜だもの。
あっという間に体温を奪われてしまったのね)
今泉 影狼:
(ど、どうしよう、温めてあげないと
この子、死んじゃうわよね。で、でも……!)
今泉 影狼:
……うぅ、でも、やるしかない!
き、気持ち悪いだろうけど、我慢してね!
今泉 影狼:
貴方の体温が戻るまで、
私が抱きしめて温めるわ!
女の子:
ん……、ふぇ……?
今泉 影狼:
そ、それまでの辛抱だから!
生きるために仕方ないと思ってよ……!
女の子:
……もふ、もふ?
女の子:
おねーさん……ふかふか、もふもふ。
えへへ。あったかい、ねぇ……。
今泉 影狼:
あ…………。
女の子:
えへへ……ふかふか、すき……すぅ。
今泉 影狼:
……そ、そう。よかったわ。
気に入ったみたいで。それなら……。
今泉 影狼:
……それなら、
毛深いのも、悪いことばかりじゃないわね。
今泉 影狼:
アオォォ―――ン…………
上白沢 慧音:
今の声は……! 影狼!?
もしや、あの子が見つかったのか!?
上白沢 慧音:
あちらだ。みんな、急いで向かうぞ!