博麗 霊夢: ……あの子は? 上白沢 慧音: 隠したよ。 そうでもしなきゃ、問答無用で殺す気だったろ。 博麗 霊夢: 当然でしょ。人妖……、人が妖怪に転じることは、 幻想郷で一番の大罪なんだから。 上白沢 慧音: 理由ぐらい聞いたっていいだろ。 あの子は、自分の意思で妖怪になったんじゃない。 上白沢 慧音: 話を聞くに、あの子は遥か昔の生まれ。 父親は、研究欲に憑かれた魔法使いだった。 上白沢 慧音: どんな術を編んでいたのか、詳しくはわからない。 だがとにかく、あの子は実験材料にされた。 上白沢 慧音: 術を掛けられ、里の外れに封印されて幾星霜。 そして、ようやく目覚めたのが、今日なんだ。 博麗 霊夢: ……だから、見逃せ。そう言いたいの? 博麗 霊夢: 生い立ちなんて、どうでもいいわ。 私はただ、博麗の巫女として役目を果たすだけ。 上白沢 慧音: はっ……。その巫女様ってのは、 よほど人の心ってもんを知らないみたいだな。 上白沢 慧音: なら、相手になってやる。 あの子には、指一本触れさせない! 博麗 霊夢: くっ……! 子を守る獣は恐ろしいっていうけど、本当ね。 上白沢 慧音: まだ続けるつもりか? これ以上やるなら、 どちらかが死ぬまで終わらないぞ。 男の子: うぅ……。せ、せん…せぇ……。 上白沢 慧音: おい、隠れてろと言ったろ? ……どうした? ひどい顔色だ。 男の子: う……うぅ……あああああああ!! 上白沢 慧音: なっ……!? これは、身体が変容して……? 何が起きてるんだ!? 博麗 霊夢: ……その子にかけられた術っていうのは、 どうやら不完全だったみたいね。 博麗 霊夢: こうなってしまったら、もう……。 私の手は必要ないわね。帰るわ。 男の子: う、うぅ……っ。 上白沢 慧音: おい、しっかりしろ。そうだ、永遠亭に行こう。 月の薬師の技術なら、お前もきっと……。 男の子: もう、いいよ。たのしかった…から……。 男の子: ぼく、友だちと遊んだこと、なかったんだ。 こうやって、抱きしめてもらったことも……。 男の子: ───ありがと、せんせい。 -------------- 翌日 -------------- 子供: せんせー、おはようございまーす! 今日も、オニごっこしますかー? 霧雨 魔理沙: よう。私も遊びにきたぜ。 ……ん? 昨日のチビ助がいないな? 上白沢 慧音: あの子は……、 上白沢 慧音: 旅の途中で、一日ここに寄っただけだったんだ。 お前たちに、遊んでくれた礼を言っていたよ。 子供: え~、そうなの? また遊びたかったな~。 上白沢 慧音: ……本当にな。授業の準備をするから、 みんなは先に行ってなさい。 上白沢 慧音: ……おい。そこは、あの子の墓だが? 博麗 霊夢: 花ぐらい供えたっていいでしょ。それより、 魔理沙たちがあの子の話をしているのを聞いたわ。 博麗 霊夢: あの子のこと、無かったことにしなかったのね。 上白沢 慧音: ずっと忘れないでいる。生者が死者に 贈れる手向けは、それだけだからな……。