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天界
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比那名居 天子:
久しぶりに戻ってきたけど、
なんの面白みもない場所ねえ。
比那名居 天子:
丹のつまみ食いで追い出されたときは、
二度と戻ってくるかって思ったけど……。
比那名居 天子:
今度は何を言われても、
出て行ったりなんか……あれ?
東風谷 早苗:
ここが天界ですか……。
天人が住むだけあって、優雅な場所ですねえ。
比那名居 天子:
山の巫女じゃないか。何してんの?
綺麗だけど、つまんない場所だろう。
東風谷 早苗:
あ、あぁ……。天人様、偶然ですね。
天界の様子が、ちょっと気になって……。
比那名居 天子:
へえ。天界に興味がある!
ここの生活は、退屈だけど快適だぞー。
比那名居 天子:
天人になれば歳も取らないし、病気知らず。
いつまでも、お肌はピチピチのまま!
東風谷 早苗:
お肌ピチピチ……。私も女子ですから、
そう言われると弱いですけど……。
比那名居 天子:
ここだけの話、
お前には天人の才能を感じてたんだ。
東風谷 早苗:
えっ? 私に天人の才能?
比那名居 天子:
私の親が仕えている名居の一族は、
神霊として祀られて、天人になったんだ。
比那名居 天子:
現人神であるお前にだって、
その可能性は十分あると思うぞ。
東風谷 早苗:
そ、そうなんですか~?
でも、特別な修行とか必要なんじゃ……。
比那名居 天子:
もちろん、私が稽古をつけてやる!
今から修行を始めれば、夜には天人になれるぞ。
東風谷 早苗:
えっ、今日中に!? やります、やります~!
東風谷 早苗:
よ~し。永遠にお肌ピチピチの、
天人ライフを手に入れちゃいますよ~!
比那名居 天子:
(しめしめ。こいつを皮切りに、
天界に一大勢力を築いてやるぞ……)
比那名居 天子:
まずは身体を鍛えるぞ!
1000段ある階段をウサギ跳びだ!
東風谷 早苗:
意外にスポ根なんですね……。
でも、ピチピチお肌のために頑張ります!
比那名居 天子:
次! 水がめに顔を浸けて、息止めだ。
呼吸法を極めて、気を練り上げろ!
東風谷 早苗:
はぁ……はぁ……。い、いきます!
むぐっ……んぐぐぐぐ……。
比那名居 天子:
ぐらつく岩の上で瞑想しろ。
無心になって、落下の恐怖を振り払え!
東風谷 早苗:
ここは地面の上……。ここは地面の上……。
う、ウサギ跳びのせいで、膝が震える……。
東風谷 早苗:
はぁ……はぁ……。こんなんじゃ、
命が、いくつあっても、足らない……。
比那名居 天子:
よし、次! 身体が強くなる天界の桃、
まとめて100個、食べてもらうぞ!
東風谷 早苗:
う、器の上に、桃が山みたいに!
これ、ちゃんとした修行なんですか?
比那名居 天子:
天人である私に、異議を唱えるのか?
私は準備で席を外すが、ちゃんと食べておけよ。
東風谷 早苗:
は、はぁい……。わかりましたぁ……。
東風谷 早苗:
……逃げるか。
比那名居 天子:
おーい、次の修行の準備ができたぞ。
……って、山の巫女がいない!
比那名居 天子:
桃も器ごとなくなってる! ん?
これは置き手紙か? なになに……。
早苗の置き手紙:
こんなデタラメな修行、付き合いきれません。
桃は食べ切れそうにないので、持ち帰ります。
比那名居 天子:
あ、あいつ~!
せっかく、修行を見てやってたのに~!
比那名居 天子:
あの完璧な修行内容の、どこが不満なんだ?
そりゃ、私は修行したことないけどさ。
比那名居 天子:
いや。それより、桃のことがバレるとまずい。
誰にも気づかれなきゃいいが……。
偉い天人:
宴会用の桃が盗まれた……?
また、あの不良天人の仕業ですか。探しなさい!
比那名居 天子:
やれやれ。こりゃまた、天界追放かな?
しばらくは地上で、ほとぼりを冷ますか。
比那名居 天子:
でも、必ず戻ってくるわ。
私が天人である限り、天界は私の場所だもの!