voice: 10101190010 voice: 10101190011 ここな わぁ……海だぁ~! まだ半年も経ってないのに……懐かしいね。

voice: 10101190020 静香 …………。

voice: 10101190030 ここな でも、いいのかな……。 オーディション、明日なのに……。

voice: 10101190040 静香 必要なことだから。

voice: 10101190050 ここな え?

voice: 10101190060 静香 ねえ、ここな。 ここながワールドダイスターになりたいって言い出したの――

voice: 10101190070 静香 いつからか、覚えてる?

voice: 10101190080 ここな ええと……中学卒業くらいだったかな。 進路希望調査に書いて、先生に呆れられたっけ。

voice: 10101190090 ここな あ、でもクラスの子にも言ったことあるような……あれ?

voice: 10101190100 幼いここな 私、ワールドダイスターになる。 なりたいっ!

voice: 10101190110 ここな ……違う。 それよりも、もっと前に……誰かに……。

voice: 10101190120 静香 そう……。 まあ、覚えてないとは思ってたけど。

voice: 10101190130 ここな え?

voice: 10101190140 静香 ここなに欠けてるもの、教えてあげる。

voice: 10101190150 ここな ……私に、欠けてるもの?

voice: 10101190160 静香 ――超演劇時代。これはひとりの少女が夢を叶えるための物語。 そして……主役はあなたよ、ここな。

voice: 10101190170 静香 だから……思い出して。

voice: 10101190180 ここな …………。

voice: 10101190190 静香 それは、演劇が最も盛んな街。無数の物語を紡ぐ街。 そこには、ひとりの少女が暮らしていました。

voice: 10101190200 静香 少女は裕福な家で、優しい両親に愛され暮らしていました。 少女は、絵本や物語が大好きな、普通の女の子でした。

voice: 10101190210 静香 ――ですが、少女は出会ったのです。 ダイスターと呼ばれる役者たちが魅せる、輝く舞台に。

voice: 10101190220 幼いここな 今日の舞台、すっごくステキだった! 特に騎士様がかっこよくて――!

voice: 10101190230 ここなの父 帰ったらいつものように、 ここなの騎士様も見せてもらわないとな。

voice: 10101190240 ここなの母 ええ。舞台を観た後にここなの演技を観るのも 観劇の楽しみのひとつだわ。

voice: 10101190250 幼いここな えへへ! うん!

voice: 10101190260 静香 少女は、とても幸せでした。 けれど――

voice: 10101190270 幼いここな お引っ越し? お家も、今よりずっと小さくなるの?

voice: 10101190280 幼いここな なんで? それじゃ、舞台は――

voice: 10101190290 幼いここな ……そっか。 大丈夫。舞台はお小遣い貯めて、またきっと自分で観に行くから。

voice: 10101190300 静香 少女は空と海がよく見える街にやって来ました。

voice: 10101190310 静香 あんなに近くだった劇場は、遠い場所になってしまいました。 両親は忙しく、見知らぬ土地で、少女はいつもひとりでした。

voice: 10101190320 静香 けれど、彼女は忘れていませんでした。 演じることの喜びを、楽しさを……。

voice: 10101190330 静香 少女はかつて見た公演を思い出し、 夢のようなあの世界をひとつひとつ、掬い上げるように演じました。

voice: 10101190340 静香 毎日、飽きることなく。

voice: 10101190350 静香 けれど、ひとりは寂しいものです。 そんなある日――

voice: 10101190360 幼い静香 あなた演劇が好きなのね。私も!

voice: 10101190370 幼いここな じゃあ、一緒にやろうよ!

voice: 10101190380 静香 ――私たちは、出会いました。

voice: 10101190390 ここな ……思い出した。 引っ越して初めてできた友達……。

voice: 10101190400 ここな 演劇が好きで、私よりお芝居が上手で……。 いつもここで、一緒にお芝居をしてた。

voice: 10101190410 静香 やりたい役が重なったら、ここなはいつも私に譲ってくれた。 ここなよりも、私のほうが上手くできるからって。

voice: 10101190420 ここな そしたら、その子が怒ったんだ。 自分の気持ちに嘘ついてたらいい演技なんかできないよって。

voice: 10101190430 ここな ……そうだよ。 どうして私……忘れてたんだろう。

voice: 10101190440 静香 センスの発動が不安定だったからじゃないかな。

voice: 10101190450 静香 私たちにとっての舞台は、 こんな防波堤で、観客もいなかったわけだし。

voice: 10101190460 シャモ センスは舞台でこそ、生きるものなのよ。

voice: 10101190470 ここな あ……。

voice: 10101190480 静香 私はここなのセンス。

voice: 10101190490 静香 ここなが作り上げた、ここなの舞台に必要だった相手役。 それから……――

voice: 10101190500 静香 ――自信を失って、抱えきれなくなった気持ちの拠り所。

voice: 10101190510 ここな 抱えきれなくなった気持ち……。

voice: 10101190520 静香 そう。『舞台に立ちたい』『いい役が欲しい』『誰よりも輝きたい』。

voice: 10101190530 静香 たとえ、他の役者を蹴落としてでも……。

voice: 10101190540 静香 私が一番上手く出来てる。あの子じゃない。 私のほうが絶対にいい! 私が一番、舞台に立ちたい!

voice: 10101190550 静香 なのに……どうして……。

voice: 10101190560 ここな うっ……。やめて、やめてよ静香ちゃん……。

voice: 10101190570 静香 誰も私を理解しない……!

voice: 10101190580 ここな やめて! 私、そんなことっ!

voice: 10101190590 静香 思ってた! 思ってたじゃない!

voice: 10101190600 ここな ……っ!

voice: 10101190610 静香 ……思ってもいいんだよ。役者だもん。 ワールドダイスターになりたいなら、なおさら!

voice: 10101190620 voice: 10101190621 静香 だから―― 返すね、この気持ち。

voice: 10101190630 ここな ……え?

voice: 10101190640 静香 舞台に立たない私が持っているべきじゃないもの。 だから、ぜんぶぜんぶ、ここなに返すよ。

voice: 10101190650 ここな ……っ!