voice: 10303110010 (シェイクスピア作『マクベス』。  それは、欲望に突き動かされた人間の行く末を描いた物語)

voice: 10303110020 (主人公の領主マクベスとその盟友バンクォーは、  3人の魔女から預言を受ける)

voice: 10303110030 (『やがては王になろうお方に祝福を。マクベス万歳!』)

voice: 10303110040 (預言を伝え聞いたマクベス夫人は、権力欲しさに夫をそそのかす。  マクベスが権力を手にするには、幾多の邪魔を排除せねばならない)

voice: 10303110050 (現国王ダンカン。『子孫が王になる』と預言を受けたバンクォー。  その他、権力を脅かす政敵を、夫婦は次々と手にかけていく)

voice: 10303110060 (当初こそ、小心者のマクベスを突き動かすのは野心家の夫人だった。  だけれど陰謀を張り巡らせるうちに、ふたりは真逆に豹変していく)

voice: 10303110070 (……脚本自体に大幅な変更はない、定番のもの。  ただ、マクベス夫人の人物像には変更が加わっている)

voice: 10303110080 (それは、永遠に美しくありたいという野心。  リリヤさんの美しさを際立たせるための配慮……)

voice: 10303110090 voice: 10303110091 リリヤ ……ふあぁ、眠い……。 まだ読み合わせ? 

voice: 10303110100 緋花里 リリヤさんごめんね。 今まで以上に本番に備えておきたくて。

voice: 10303110110 ええ。準備をしておくことに越したことはありませんわね。

voice: 10303110120 リリヤ 準備……?  自分を美しく見せる方法は、もう分かっているのに? 

voice: 10303110130 いえ、そうではなく——

voice: 10303110140 緋花里 あっ!  雪おかえりー! バイト納めおつかれー。

voice: 10303110150 うへえ、こんな時間まで読み合わせしてるのか。 とんでもない熱量だな……。

voice: 10303110160 緋花里 すごいお芝居をしなきゃいけないから! サンクルー!

voice: 10303110170 voice: 10303110171 フン、それが分かってるならいい。 ……ワタシも何かしら、アドリブを仕込んで目立つか? 

voice: 10303110180 演出方針は先生方が示されます。信じるべきですわよ。

voice: 10303110190 与えられた役を、脚本と演出を信じて、 全うすることが役者としてのあり方です。

voice: 10303110200 フン。まあ、暦サンは暦サンだ。好きにしろ。 ワタシはワタシで、好きにさせてもらう。

voice: 10303110210 緋花里 雪もやるなら手伝うよ! じゃあ第一幕から!

voice: 10303110220 リリヤ ……まだやるの?  夜更かしは肌に悪い。私も好きにしたい。眠たい……。

voice: 10303110230 寝たけりゃ後で好きなだけ寝ろ! 始めるぞ!

voice: 10303110240 ……。

voice: 10303110250 銀河座団員たち 血の雨を降らせてやる。いや血の雨を……で溜める?  韻律のリズムがあるし、直前のバンクォー次第でしょ。

voice: 10303110260 銀河座団員たち 魔女の幻影の舞台演出は、3年前と同じか。 そこさ、技術スタッフに確認してきたんだけど。

voice: 10303110270 緋花里 …………。

voice: 10303110280 おい、何ボーッとしてんだ。始めないのか?

voice: 10303110290 緋花里 ……みんな、少しずつ話し合うようになったよね。 昔はひとりで稽古してる人たちばっかりだった。

voice: 10303110300 voice: 10303110301 どこぞの切磋琢磨バカの悪い影響だな……。 そういやどこ行ったんだあいつ。

voice: 10303110310 ラモーナ 頼むから話を聞いてほしい!  私たちも銀河座に貢献したいだけなんだ! 

voice: 10303110320 ……!

voice: 10303110330 緋花里 ラモさん……?

voice: 10303110340 演出チーフ 必要ない。余計なことを考えず役割を全うしろ。 それが銀河座の役者だ。

voice: 10303110350 ラモーナ 皆も、私も、未だ戸惑いがある。だからこそ意見を交換し、 より良い演技にしたい。それの何が間違っているのか? 

voice: 10303110360 演出チーフ その考え自体がおこがましい。

voice: 10303110370 ラモーナ なんだと……!

voice: 10303110380 落ち着いてください、ラモーナさん……!

voice: 10303110390 ラモーナ ……落ち着いている。ああ、落ち着いているとも。 私は、揉め事を起こしたいわけじゃない。

voice: 10303110400 演出チーフ 私は行く。自主稽古を続けろ。

voice: 10303110410 ええ、お時間を取らせて申し訳ありませんでした。

voice: 10303110420 ……何を考えてらっしゃるんですか、貴女は。

voice: 10303110430 ラモーナ 議論がしたかっただけだ。 サンクルーの星を逃してしまってからでは、遅いんだぞ……。

voice: 10303110440 きっと、悩まれて出された結論なのです。 先生方も、銀河座のために動いておられますから。

voice: 10303110450 ラモーナ ……。

voice: 10303110460 少し場所を移しましょう。 貴女も、頭を冷やすべきですものね。

voice: 10303110470 ラモーナ ……ああ。

voice: 10303110480 voice: 10303110481 緋花里 ……。 ラモさんたち、帰ってこないね。大丈夫かな……? 

voice: 10303110490 さあな。まあ、ドイツの言い分は分からんでもない。

voice: 10303110500 他の劇団もサンクルーガイドの掲載に必死だ。 こっちもそれ以上の結果を出さなきゃいけない。

voice: 10303110510 緋花里 だね、私も負けられない! メラメラバーニング!

voice: 10303110520 リリヤ ……ふわあぁ。

voice: 10303110530 リリヤ もう無理、限界。緋花里の膝枕、借りる……。 ぬくひゅびん……。

voice: 10303110540 voice: 10303110541 緋花里 あわわ。リリヤさん、稽古場の床だと冷えてしまうよ?  ……寝ちゃったさ。

voice: 10303110550 お前なあ……。 現代アート作家とやらに、そんな姿見せていいのかよ……。

voice: 10303110560 リリヤ (やるべきことは決まってる)

voice: 10303110570 リリヤ (舞台の上に立って、言われたことだけをやればいい。  私に求められているのは、美しくあること)

voice: 10303110580 リリヤ (……だけど、みんな熱くなってる。不思議)

voice: 10303110590 ラモーナ 暦はどう見る? 今回の『マクベス』について。

voice: 10303110600 大筋では原典通り。伝統に基づいたものですわ。 過去の公演と異なるのは、マクベス夫人の執着心でしょう。

voice: 10303110610 ラモーナ うむ。本来であれば、夫人が求めるのは巨万の富だ。 だが今回の夫人は、富による至上の美しさを求めている。

voice: 10303110620 ラモーナ 間違いなく、リリヤのイメージに配慮した結果だ。 台詞が変えられている以上、演出もこれまでとは違うものになる。

voice: 10303110630 ええ……。

voice: 10303110640 ラモーナ だが、本当にこれだけでいいのか? これが正しいのか?  変えるというなら他にもやれることはあるんだぞ……。

voice: 10303110650 先ほども申しましたが、これが銀河座の結論です。 演出方針には従うべきですわよ。

voice: 10303110660 ラモーナ それは本心からの言葉ではないだろう。 暦も、意見のひとつくらいはあるはずだ。

voice: 10303110670 (意見……そのようなものは私にはありません)

voice: 10303110680 (ですが私は、今迷っている。  守り続けた伝統と、先生の打ち出した革新に挟まれて……)

voice: 10303110690 ……。

voice: 10303110700 ラモーナ なあ、暦。手段は違っていようとも、私も銀河座を守りたいんだ。 これだけは覚えておいてくれ。

voice: 10303110710 ……そんな貴女の手段というのが、先生に楯突くことですの?

voice: 10303110720 ラモーナ 必要なことだからやった、それだけだ。

voice: 10303110730 ラモーナ まあ……暦の目には、不遜に映ってしまったようだがな。 私は、話し合いの機会を持ちたかっただけなんだが……。

voice: 10303110740 似ているんですのよ……。

voice: 10303110750 ラモーナ ん?

voice: 10303110760 ……いえ、先ほどのお話ですが。 今回の方針には正直なところ、私にも不安はあります。

voice: 10303110770 『王道』だけではない新たなものに挑む恐怖。なにより、 今まで自分が積み重ねてきたものを捨てることになるのではと……。

voice: 10303110780 ラモーナ 暦……。

voice: 10303110790 ラモーナ すまない。

voice: 10303110800 ええと、なぜ謝ったのです?

voice: 10303110810 ラモーナ お前の重荷を負えず、苦労もかけているようだからな。 察しの通り、私は少し焦っているようだ。

voice: 10303110820 ラモーナ 看板役者であるお前の不安も、もっともだろう。

voice: 10303110830 ラモーナ 銀河座は伝統と格式を重んじる劇団であり続けている。 暦のような者のお陰で、連綿と守られてきたのだろう。

voice: 10303110840 ……。

voice: 10303110850 ラモーナ だが今は皆、サンクルーガイド掲載という目標を掲げ、 これまで以上を目指して『マクベス』に挑んでいる。

voice: 10303110860 ラモーナ それは伝統を重んじながらも革新を求められ、 新たな境地に足を踏み入れることだ。

voice: 10303110870 矛盾していますわね。

voice: 10303110880 ラモーナ ああ。ゆえに。サンクルーの星への道を示してくれるガイドはない。 迷子にならないための演劇ガイドだというのに、皮肉なものだ……。

voice: 10303110890 ガイド……。

voice: 10303110900 (——皆さん、もがきながらも答えを探している。  自分の成すべきことをなすための、道しるべを探している)

voice: 10303110910 (だったら私の成すべきことは……)

voice: 10303110920 ……ラモーナさん、稽古場に戻りましょう。 座長として、成すべきことが見つかったかもしれません。