voice: 10304140010 ――それでは始めるといたしましょう。 私と緋花里さん、ふたりだけの稽古を。

voice: 10304140020 緋花里 はっ、はい……! よろしくお願いします、暦さん……!

voice: 10304140030 では、そうですね……。 まず手始めに、緋花里さんの思う牛若丸を演じてはいただけませんか?

voice: 10304140040 緋花里 わ、私の思う、牛若丸……?

voice: 10304140050 ええ、言葉の通りですわ。……銀河の演出に捉われない、 緋花里さんの感じたままの牛若丸を、見せていただきたいのです。

voice: 10304140060 緋花里 私の思う、牛若丸……うん、いいよ! やってみるね……!

voice: 10304140070 緋花里 『斬るも斬らぬも斬られた者の語ること……。  名を問われて、応ずる義理もなし』

voice: 10304140080 緋花里 『されど刀を帯び、橋に立つ者がもうひとり。  その方こそ……何者と知れ!』

voice: 10304140090 (父の敵討ちという使命と母の反対に板挟みにされる中、  今宵最後の果し合いに臨む少年、牛若丸……なかなか面白いですわね)

voice: 10304140100 『名乗れと申すか、人斬り。……ならば聞け!  我こそは比叡の山にて学びし僧兵、武蔵坊弁慶なるぞ!』

voice: 10304140110 緋花里 (すごい……! 力強い……!  小柄な牛若丸を、薙ぎ払うような気迫がある……!)

voice: 10304140120 ……いいでしょう。そこまで!

voice: 10304140130 緋花里 ! あのっ、今の……どう、だったかな?

voice: 10304140140 私は演出家ではありませんので、 正しい、正しくないの回答はいたしませんわ。

voice: 10304140150 ただ、今のが緋花里さんの思うままに演じた……、 自由で革新的な演技、ということですのね。

voice: 10304140160 緋花里 うん、そうだよ! ワークショップで、みんなと演技する中で学んだ、新しい演じ方!

voice: 10304140170 なるほど。 でしたら次は、先生から指導された演じ方で、お願いできますか?

voice: 10304140180 緋花里 分かった……! やってみる……!

voice: 10304140190 緋花里 (稽古中には上手くできなかったけど、今度こそ……!  暦さんの足を、もう引っ張りたくないから……!)

voice: 10304140200 それでは――始めっ!

voice: 10304140210 緋花里 『……斬るも斬らぬも、斬られた者の語ること。  名を問われて、応ずる義理もなし』

voice: 10304140220 緋花里 『されど刀を帯び、橋に立つ者が……もうひとり。  その方こそ、何者と知れ』

voice: 10304140230 ……!

voice: 10304140240 (そう、これですわ……銀河座の伝統ある演技……。  孤独に強さだけを求める牛若丸の姿)

voice: 10304140250 『名乗れと申すか、人斬り。ならば聞け。  我こそは比叡の山にて学びし僧兵……武蔵坊弁慶なるぞ!』

voice: 10304140260 緋花里 (暦さんとふたりだけだからかな……。  緊張もしないし、自由に演じられてる気がする)

voice: 10304140270 緋花里 (牛若丸として気持ちをぶつけると、それに暦さんが弁慶として答えてくれる。  なんだろう、この感じ……すごく気持ちいい!)

voice: 10304140280 緋花里 (それに、演じ分けてみて、わかったことがある……。  牛若丸がどんな気持ちで、橋の上に立ってたのか……)

voice: 10304140290 ストップ。 ……今日はこのくらいでいいでしょう。

voice: 10304140300 緋花里 暦さん……ありがとう! 2つのやり方で演じ分けてみて、 ほんのちょっとだけだけど、演出の意図が掴めた気がする!

voice: 10304140310 そうですか……それなら、良かったですわ。 ですが、昼の稽古ではできなかったのに、なぜ今は演じられたのですか?

voice: 10304140320 緋花里 えっ? えっと……分かんないけど、多分……暦さんが相手なら、 思いきり演じても受け止めて貰えるって、信じてたからかな?

voice: 10304140330 ふふっ、嬉しいことを仰ってくださいますわね。 役者として信頼していただけて、光栄ですわ。

voice: 10304140340 ……緋花里さんが私を信じてくださったように、 先生も、緋花里さんならできると信じて、指導されているのです。

voice: 10304140350 これが信頼というものだと、私は考えてますわ。

voice: 10304140360 緋花里 信じてくれてるんだ……先生も、私のことを。 あのさ、暦さんは? 私のこと、信じてくれる……?

voice: 10304140370 はあ、あなたって人は……何度言わせたら分かるのです。 信じていなければ、このように自主的に稽古などお誘いしませんわ。

voice: 10304140380 緋花里 そっか、それもそうだよね……っ。 なんか変なこと聞いちゃってごめんね。

voice: 10304140390 いえ、それで少しでも緋花里さんに自信がつくのでしたら。 ……それより、遅くなってしまいましたわね。そろそろ帰りましょう。

voice: 10304140400 私は一足お先に失礼いたしますわね。 緋花里さんも、帰りは気を付けてくださいね。……それではまた明日。

voice: 10304140410 緋花里 うん! ありがとう、暦さん! ……また明日ね!

voice: 10304140420 緋花里 (なんか今日は、いっぱい暦さんに励まされちゃったな……。  暦さんだって、色んなプレッシャーがあって、大変な時なのに……)

voice: 10304140430 緋花里 (なのに暦さん……私の前で、愚痴も弱音も、全然吐かなかったな。  というか、暦さんがそういうの喋ってるとこ、見たことあったっけ?)

voice: 10304140440 緋花里 (暦さんは……励ましてくれる人、いるのかな。  牛若丸と弁慶みたいに……側に居て、支えてくれる人)

voice: 10304140450 緋花里 (今は牛若丸よりも、弁慶の方が支えが必要なんじゃないかな――)