voice: 10402110010 叶羽 (『一歩先の私へ――』)

voice: 10402110020 叶羽 (誰だったか。大人がそう評価していた、あの子のセンス)

voice: 10402110030 叶羽 (『狛江地歩は答えを持っている。  だが、その答えは最善ではない』)

voice: 10402110040 叶羽 (アタシがオリンポスにいた頃、地歩は最善を選べていなかった。  稽古終わりにはいつもバテバテで、壁際でへたり込んでいたのを思い出す)

voice: 10402110050 叶羽 (……そうだ。印象的だったのは、その熱っぽい目。  どんな時も力強くて、アタシはもっと省エネすればいいのにって思ってた)

voice: 10402110060 叶羽 (そんな子、だったのに――)

voice: 10402110070 電姫団員たち 「……おお」「ふわぁ……」「やば……」 「これがオリンポス……」「マジかぁ……」

voice: 10402110080 地歩 ……ありがとうございました。

voice: 10402110090 いろは す、す、す、すごかったです! ブラボーです、ブラボー!!

voice: 10402110100 美兎 地歩ちゃんのアリス、 短いセリフだけなのに世界観まで伝わってきた……!

voice: 10402110110 カミラ ヤバ……何がどうヤバたんかもわからんくて笑える……。

voice: 10402110120 ああ、黄金螺旋とはまさにこのことか。

voice: 10402110130 未来が見えるなんて難しいセンスを、 11という年齢でよくここまで使いこなすものです。

voice: 10402110140 並の役者であれば活用の仕方も解らぬまま、 見えた未来を漠然と迎えるでしょうに。

voice: 10402110150 マチコ 経験より導き出される高い判断能力に、未来を改善させる発想力と瞬発力。 高い演劇IQと、それを実現させる身体能力も必要だろう。

voice: 10402110160 良い役者であれば都度対応していくのも当然ですが、 どうしたって遅れを取ってしまうものですからね。

voice: 10402110170 マチコ 対して未来が見える狛江であれば、最大限活用できた日には、 自らが思い浮かべた演出を周備に実現することすら可能になるか。

voice: 10402110180 それが今の評価に繋がる――真偽不明ですが、今年のオリンポスでは 叶羽が在籍していた頃に匹敵する数の子役が折れて辞めたって噂も聞きますね。

voice: 10402110190 マチコ その恐ろしさに気づけず、 無邪気に喜べるのも幸福かもしれないが――

voice: 10402110200 叶羽 …………。

voice: 10402110210 マチコ (お前の翼は、羽ばたけるか?)

voice: 10402110220 叶羽 …………………………。

voice: 10402110230 美兎 ふわぁ……。 地歩ちゃんのアリスが、まだ頭の中に残ってる……。

voice: 10402110240 神々の座と呼ばれるだけはある……。

voice: 10402110250 いろは 円盤では観たことありましたけど、 生の演技だとオーラが違いますね、オーラが!

voice: 10402110260 カミラ あーね。これが正解、って思わされたわ……。 もっと時間があったら何考えて演技してんのか話聞けたのに――

voice: 10402110270 叶羽 ――だったら、オリンポスに行きなよ。

voice: 10402110280 カミラ へ。

voice: 10402110290 叶羽 あのアリスがいいんでしょ!

voice: 10402110300 美兎 あ、叶羽ちゃ……。

voice: 10402110310 叶羽 帰る。

voice: 10402110320 voice: 10402110321 マチコ 待て、叶羽―― 叶羽っ!

voice: 10402110330 いろは 叶羽ちゃん……!

voice: 10402110340 マチコ チッ!

voice: 10402110350 voice: 10402110351 ――はいはい、みんな落ち着いて。 落ち着きなさーい!

voice: 10402110360 電姫団員たち …………。

voice: 10402110370 遅くなっちゃったし、今日の読み合わせはここまで。 各自、自分の演技を思い出して修正してくるように。

voice: 10402110380 いろは ……あ、あの、叶羽ちゃんは。

voice: 10402110390 こちらに任せておきなさい。 大丈夫、悪いようにはしないから。

voice: 10402110400 マチコ …………………………。

voice: 10402110410 ……条例に引っかかりますよー。

voice: 10402110420 マチコ 敷地内だ。吸うか?

voice: 10402110430 私、ガラム系苦手なんです。

voice: 10402110440 マチコ …………ふぅーーー。

voice: 10402110450 うわっ、煙吹きかけないでくださいよ。 子どもですか。

voice: 10402110460 マチコ 未成年は吸ってはいけない。 常識だぞ、大人の嗜好品だ。

voice: 10402110470 精神年齢の話です。

voice: 10402110480 ……久しぶりですね、それ吸うの。

voice: 10402110490 マチコ この銘柄、最後に吸ったのはいつだろうな。 ずいぶんと手に入りづらくなったものだ。

voice: 10402110500 ……刺激、強すぎましたね。

voice: 10402110510 マチコ 経営者の深入りが商品を潰すとは、良く言ったものだよ。

voice: 10402110520 止めなかった私も同罪ですよ。 ボスの判断は間違っていません。多分。

voice: 10402110530 マチコ 或いは私たちがふたりとも『ダメな大人』か、だ。

voice: 10402110540 マチコ この街は変わり続け、かつての面影を覚えている者は減っている。 2匹のジャガーが踊っていたCMの話も、若い者には通じない。

voice: 10402110550 バスケコートがあった時代の話してます?

voice: 10402110560 マチコ フッ、あの頃は煙草の味もまだ知らなかったな。

voice: 10402110570 マチコ ……私たちの興行も同じさ。

voice: 10402110580 マチコ 配信アーカイブや物理メディアで残されていても、 過去になれば思い出となり、後は薄れていく一方だ……。

voice: 10402110590 マチコ ふぅ……………………。

voice: 10402110600 マチコさん、灰皿。

voice: 10402110610 voice: 10402110611 マチコ ……ん? ああ、すまない。

voice: 10402110620 だからこそ、電姫が未来も生き続けるためには叶羽の覚醒待ったなし。 ってことですよね。はーあ、大人の事情に巻き込んじゃってるなぁ。

voice: 10402110630 叶羽と同世代の新人が入ってくれれば良かったんですけど。 そうすればセンスが使えたかもしれないのに。

voice: 10402110640 マチコ 同世代と演技した時のみ発揮されるセンス……か。 本当に良いものと思っているのか?

voice: 10402110650 voice: 10402110651 隣に並び立つ者がいれば、叶羽の存在感は無限ともいえる輝きを放つ。 しかしその輝きが激しければ激しいほど――並び立つ者は焼け焦げる。

voice: 10402110660 ――自然、同じ舞台に立てる同世代の役者は減っていき、 彼女のセンスが発揮される機会は失われていった。

voice: 10402110670 故に、恐ろしい話だが、今のオリンポスは未完成と言えよう。 他の雛鳥が成熟した日、我々は神々の演技を目にすることとなる。

voice: 10402110680 ……以上、フューチャーダイスターの人気コラム『星を継ぐ役者』より。 一部抜粋でお送りいたしました。

voice: 10402110690 マチコ よく覚えている。叶羽が電姫へ移籍すると言い出して、 情報収集のためにバックナンバーを集め直したな。

voice: 10402110700 最初に話を聞いた時は『マジ?』ってなりましたよねぇ。 まあ、マジだったわけで。あの時はガチで焦りましたよ。

voice: 10402110710 マチコ ……演劇の神も、業の深いセンスをお与えになったものだ。 輝きたいと願っても、自分の自由には発揮できないなんて。

voice: 10402110720 マチコ よしんば輝く条件が整ったとしても、 同世代の役者の寿命を縮めることになりかねんとはな。

voice: 10402110730 そうですかね。

voice: 10402110740 オリンポスの役者は知りませんけど。 きっと電姫の子たちなら――

voice: 10402110750 叶羽がどれだけ眩く輝いたところで、眩しさ対策にサングラスかけて、 応援うちわや光る棒なんかを振り回しながら……。

voice: 10402110760 voice: 10402110761 『もっと輝いてー!』 ……なんて。大はしゃぎすると想うんですよねー。

voice: 10402110770 マチコ 一番近くで観てきたお前がそういうなら、 そうなのかもしれないな。

voice: 10402110780 そういう子たちに育ててきたつもりです。 だから……。

voice: 10402110790 あーもー! 拗ねてるんじゃないわよ、バカ―!

voice: 10402110800 ……なーんて言っても仕方ありませんし。 せめて子どもたちの『楽しい』は守ってみせますよ。

voice: 10402110810 マチコ 頼む。

voice: 10402110820 成功報酬は肉ビル最上階……は、もうないんでしたっけ? 焼肉の最上級コースでもいいですよ。新しい店、まだ行ったことないんで。

voice: 10402110830 マチコ 2,980円食べ放題。

voice: 10402110840 けちー。

voice: 10402110850 マチコ その代わり、あの子たち全員と一緒にだ。