voice: 20013040010 ……。

voice: 20013040020 仁花子 いるるん!

voice: 20013040030 仁花子 こんにちはー。 最近学校でよく会いますね。

voice: 20013040040 仁花子……!

voice: 20013040050 仁花子 あれ? 本? 図書室で借りたんですか?

voice: 20013040060 仁花子 これって――、『サロメ』の原作?

voice: 20013040070 voice: 20013040071 あははは、バレちった。 なんとなくね~。

voice: 20013040080 大筋は知ってるんだけどさ。 しぐれも怖がるくらいだし、じっくり読んでみようかなって。

voice: 20013040090 これがホントの怖いもの見たさ的な?

voice: 20013040100 仁花子 私も今度借りようかな! レンさんの脚本が完成したら、違いがわかって面白そうですよね~。

voice: 20013040110 読み終わったら教えるよー。

voice: 20013040120 仁花子、これから花壇の水やりでしょ? 窓から見えたんだけど、 もう他の園芸部っぽい人来てたよ。

voice: 20013040130 仁花子 そうだ! 急がないと!

voice: 20013040140 行ってらっしゃーい。

voice: 20013040150 voice: 20013040151 ……。 ……すごい。

voice: 20013040160 (王女サロメは、国王である父を叔父ヘロデに殺された。  だけどサロメの母へロディアは、夫の仇と結婚した)

voice: 20013040170 (ヘロデ王は義理の娘のサロメに言い寄りはじめる。  嫌気がさしたサロメは、逃げた先で預言者ヨカナーンの声を聞く)

voice: 20013040180 (ヨカナーンはへロディアたちを非難した罪で、  井戸に閉じ込められていた……)

voice: 20013040190 美しく高潔なヨカナーンと出会い、恋に落ちるサロメ。 けれどヨカナーンはサロメを否定する。

voice: 20013040200 恋に落ちた相手は、けして自分を受け入れない存在だったんだね。

voice: 20013040210 ……っ。

voice: 20013040220 voice: 20013040221 『ヨカナーン、もう一度話して?  お前の声はなんて美しいの……。まるで音楽のよう』

voice: 20013040230 『ヨカナーン、お前の白い肌に触れさせておくれ。  美しく清らかなその肌に』

voice: 20013040240 大黒 ……容さん?

voice: 20013040250 あっ……!

voice: 20013040260 だ、大黒。来たんだ。 トレーニング?

voice: 20013040270 台本も配役もまだだから、今日は来るの自由なのに。

voice: 20013040280 大黒 私、まだEdenに入って長いとは言えないし……。 人より練習しないと。

voice: 20013040290 大黒 容さんこそ、『サロメ』のセリフを? 気合いじゅうぶんね……。

voice: 20013040300 これは原作だよ。つい本を読むのに夢中になっちゃってさー。 恥ずかしいわ……。

voice: 20013040310 大黒 別に照れなくていいのに……。

voice: 20013040320 大黒 気に入った役があれば、演じたいと思う。 役者なら当然だわ。

voice: 20013040330 いや、アタシは本当に違うんだ。 別に主役をやりたいわけじゃないし……。

voice: 20013040340 今までの舞台だってそうだよ。

voice: 20013040350 大黒 主役……やりたくないの?

voice: 20013040360 大黒 そんなことあるのね。 役者なら全員やりたいと思っていたわ……。

voice: 20013040370 いやー、昔はやりたかったよ? けど、いざやってみたら自分は違うなって思っちゃったのさ。

voice: 20013040380 voice: 20013040381 大黒 違う……? じゃあ今は望んで脇役をやっているってこと?

voice: 20013040390 別に……望んでいるわけじゃないけどね。 アタシはただ、どんな形であれ舞台に立ち続けたいだけ。

voice: 20013040400 voice: 20013040401 大黒 さっきの、自分は違うなって思ったって、 ……どうして、そう思うの?

voice: 20013040410 voice: 20013040411 んー……。 まあ、昔色々あってねぇ。

voice: 20013040420 Edenは曲者揃いだけど、その分みんな魅力的でさ。 それぞれに合った『主役』っていうのが必ずある。

voice: 20013040430 でもアタシはそういう尖ったタイプじゃないじゃん? バイプレイヤーに徹して、舞台のバランスを保ってきた。

voice: 20013040440 voice: 20013040441 センスだって、それを証明してる。どんな役でも平均点を取れるかわり、 ……満点演技はできないの。

voice: 20013040450 大黒 我が主は、センスに頼りすぎるなとも言っているわよ……。

voice: 20013040460 アタシの個性を活かすんだったら、それしかなくない? 初魅だってアタシにそれを求めてると思う。

voice: 20013040470 大黒 我が主は、そんな風に人を決めつけたりしないわ……。

voice: 20013040480 あっはは。 確かに、空気読みすぎてんのかなー。

voice: 20013040490 (でも……。本気でやってまたダメだったら。  その時アタシは、今度こそ折れてしまいそうな気がする)

voice: 20013040500 大黒 やりたいと少しでも思うなら……、 主役に挑戦してみたらいいのに。

voice: 20013040510 ありがとー。 でも……アタシはもういいんだ。ある種の諦め、というか……。

voice: 20013040520 役者歴、こう見えて長いからねー。 ここで楽しく演劇ができればそれでいいの。

voice: 20013040530 時々うらやましいよ。あんたや初魅みたいに、 演劇に熱くなって全部を賭けられる人が……。