voice: 20033020010 緋花里 雪の第一印象は『ちょっぴりこわいひと』。

voice: 20033020020 緋花里 沖縄でスカウトをされた私は、初めて暮らす東京にも、 初めてやる演劇にも胸がいっぱいで、ワクワクしてた。

voice: 20033020030 緋花里 同期のみんなもきっと、そうやってワクワクに胸がいっぱいで、 楽しい夢を追いかけて銀河座に入るんだって、疑いもしなかった。

voice: 20033020040 緋花里 だから、入団の時のミーティングで、偶然隣に座った雪にも、 『仲良くしたい』って、手を差し出したんだ。

voice: 20033020050 緋花里 あ……あれ……。 ごめん、なれなれしかったかな……。

voice: 20033020060 お前は平和でよさそうだな。

voice: 20033020070 緋花里 平和?

voice: 20033020080 ここがどこだか知ってて来たんだろ。 お前とワタシは、オトモダチじゃなくて役を奪い合うライバルなんだ。

voice: 20033020090 仲良くなんてしてるヒマがあるなら、練習をしてた方がいいぞ。 来月には同期の数が半分になってたっておかしくないんだからな。

voice: 20033020100 緋花里 ……。

voice: 20033020110 緋花里 ……雪のアドバイスは、本当だった。 『二回目』を終える頃には、見知った顔が何人もいなくなっていて。

voice: 20033020120 緋花里 楽しいことがたくさんあるはずって思っていたのに、 私は演出家の先生やトレーナーさんの指示に従うことで精一杯だった。

voice: 20033020130 緋花里 帰りたい、って一度口に出したら、 あっさり本当になってしまいそうなことも怖かった。

voice: 20033020140 緋花里 ……。

voice: 20033020150 緋花里 あ、ええと……雪ちゃん。 これから夕飯?

voice: 20033020160 ……ああ。

voice: 20033020170 緋花里 そうなんだ。 ええと……、一緒に食べてもいい?

voice: 20033020180 ……好きにしろ。

voice: 20033020190 緋花里 同期の雪は、いっつもちょっぴりぶっきらぼうだけど、 いっつもちょっぴり優しかった。

voice: 20033020200 緋花里 仲良くしてないで練習をしろってアドバイスをしてくれたし、 一緒に夕飯を食べるのも、ダメって言わなかった。

voice: 20033020210 緋花里 そういうところ、今考えてみると、雪らしいな。 だからかな、いつか仲良くなりたいってずっと思ってた。

voice: 20033020220 緋花里 ああいう風に、頑張って食らいついて、 一番じゃなくても『辞めさせられない』ようにしなくっちゃって。

voice: 20033020230 緋花里 勝手に、憧れてた。

voice: 20033020240 緋花里 あはは、そうなんだ。 お父さんは相変わらずだねえ。

voice: 20033020250 voice: 20033020251 緋花里 うん、うん。 ……私? 元気だよ。はっさ、もう、お母さんは心配性だねえ。

voice: 20033020260 voice: 20033020261 緋花里 配信? ……そう、ね。 最近、少し忙しくって、だから……やれてないわけさ。

voice: 20033020270 緋花里 心配しないで! この前だって、配信のチケット送ったでしょ? 『白蛇伝』、私が白娘子って蛇の女の子でね、雪を誘惑しちゃうんだよ!

voice: 20033020280 voice: 20033020281 緋花里 学校も楽しいし、この前は美兎ちゃんのお家がやってるお店でね―― えっ?

voice: 20033020290 緋花里 そうだけど……ちょっと配信やってないってだけでしょ? どうしたの? お母さん。

voice: 20033020300 緋花里 あはは、別に……なんにもないよ。

voice: 20033020310 緋花里 ……うん。大丈夫ってば。 配信は……そのうち、ね。

voice: 20033020320 (カミラの案じる、最近の緋花里とやらについて、  目に見えてなにか気にしているやつは銀河座にはいないようだった)

voice: 20033020330 (ただ、配信とやらは本当にしばらくやってないらしい。  ワタシは観ないから、全く気付いていなかったが)

voice: 20033020340 (生活がかかってるわけでもないんだし、  顔も知らない視聴者に向けておしゃべりしてないことがそんなに大事か?)

voice: 20033020350 (ドイツは、最近の緋花里は部屋にいることが多いとは言うが、  そのことについて特に踏み込んだりはしていないらしい)

voice: 20033020360 (心配してセンスで見たりもしたとか言っていたが  結果は、普段通り。異常なし。だから、様子見中だと)

voice: 20033020370 (暦サンも、なんとなく元気がないような……とは言うが、  他人の事情に踏み込むな、と暗に釘を刺された)

voice: 20033020380 (フィンランドに至っては『言われてみれば』だとか、  なんの足しにもならない返事だった)

voice: 20033020390 はぁ~、いつもいつも、面倒ごとの絶えない劇団だな。 ワタシがいなけりゃ今頃どうなってたんだ。

voice: 20033020400 ……。

voice: 20033020410 ……おせっかいは、ドイツのがうつっただけだ。 このまま放っておいたって、寝覚めが悪いだけだしな。

voice: 20033020420 voice: 20033020421 カミラ いやいや、無理に聞き出したりはしないであげてほしいんだけど! ……ヒカりんにも事情があるかもしれんし。

voice: 20033020430 カミラ だから、ちょっと優しくしてあげてほしいっていうか~……。

voice: 20033020440 フン、優しくしろだなんだと言うが、 ここでは悩みを聞いてやるだけでも優しいってもんだろ。

voice: 20033020450 おい、緋花里。いるんだろ。

voice: 20033020460 緋花里 っとごめん。誰か来たみたい。またね。

voice: 20033020470 緋花里、入っていいか?

voice: 20033020480 voice: 20033020481 緋花里 雪? え、ええと、だめ!

voice: 20033020490 はぁ?

voice: 20033020500 緋花里 ……どうしたの、雪。何か、用事?  あっ、電話うるさかった?

voice: 20033020510 別に、いっつもやってる配信の方が100倍うるさい。

voice: 20033020520 緋花里 は、配信の話……しに来たの?

voice: 20033020530 さあな。 ただ、少し話でもと思っただけだ。

voice: 20033020540 緋花里 話……。な、なんの話? 洗濯も今日は終わってるし、宿題もさっき一緒にやったさ。

voice: 20033020550 いいから。別に、怒る用事でもないし、 そっちこそ、いつもならとっとと開けるのに、なんで今日は開けないんだ?

voice: 20033020560 緋花里 ……。

voice: 20033020570 緋花里 い……いま、部屋汚いから! 雪見たら絶対怒るもん! だから、だめ!

voice: 20033020580 怒らない。ほら、さっさとしないとドイツたちも来ちまうぞ。

voice: 20033020590 緋花里 ……。

voice: 20033020600 緋花里 なんの話、しに来たの?

voice: 20033020610 その口ぶりなら、なんか気にしてることがあるんだろ?

voice: 20033020620 緋花里 ……今は、話したくない。 それに、きっと雪にはわからないよ。

voice: 20033020630 なっ……!

voice: 20033020640 voice: 20033020641 カミラ いやいや、無理に聞き出したりはしないであげてほしいんだけど! ……ヒカりんにも事情があるかもしれんし。

voice: 20033020650 ……。

voice: 20033020660 わかった。今日はもういい。 とっとと歯、磨いて寝ろよ。