voice: 20036070010 いろは ……すぅ、はぁ。

voice: 20036070020 いろは 大丈夫、大丈夫。 ……こうすれば、全部解決するんですから。

voice: 20036070030 いろは (私はきっと千寿家で立場を失うのでしょう。  今度こそ、誰も私を見てくれなくなる)

voice: 20036070040 いろは (これ以上私のせいで周りを悲しませたくない。  それに私の存在がお姉ちゃんの邪魔になるのなら……)

voice: 20036070050 いろは (これが、一番いい選択なんです)

voice: 20036070060 いろは 失礼します。

voice: 20036070070 いろは ……父さん。母さん。 お話があります。

voice: 20036070080 いろは 私、演劇はもう辞めようと思うんです。

voice: 20036070090 暦といろはの母 ……!

voice: 20036070100 暦といろはの父 いろは? どうしたんだ、急に。

voice: 20036070110 いろは 急になってしまってすみません。 でも、そう決めたんです。

voice: 20036070120 暦といろはの母 な、なにもそんな……、 急いで決めなくてもいいんじゃないかしら?

voice: 20036070130 暦といろはの母 児童部だって、15歳までは延長でいられるんだし、 成年部の所属試験だって、今年もチャレンジしてみたらいいのよ。

voice: 20036070140 いろは いえ、センスもないまま続けてきてしまいましたし、 もう、おしまいにしようと思うんです。

voice: 20036070150 暦といろはの母 おしまい、だなんて……。

voice: 20036070160 暦といろはの父 ……。

voice: 20036070170 暦といろはの父 わかった。 センスがないまま、舞台で苦しむよりは、いっそそれが良いかもしれないな。

voice: 20036070180 暦といろはの母 あなた……。

voice: 20036070190 暦といろはの父 お前だって、嘆いていたじゃないか。いろはが可哀想だと。

voice: 20036070200 暦といろはの母 でも……。

voice: 20036070210 いろは ……いいんです、母さん。 私がそうしたいって決めたことなんですから。

voice: 20036070220 いろは 期待に応えられなくて、ごめんなさい。

voice: 20036070230 暦といろはの母 ……。

voice: 20036070240 暦といろはの母 ……わかったわ。 いろはがそう決めたなら、尊重する。

voice: 20036070250 いろは ありがとうございます。

voice: 20036070260 暦といろはの母 ……ええ。 じゃあ、おばあさまには私から……。

voice: 20036070270 いろは おばあさまも、僕が演劇を辞めることに反対しませんでした。 むしろ、その方がおばあさまにも都合がよかったのかもしれません。

voice: 20036070280 いろは そうして、『私』の演劇生活は終わりを告げたのです。

voice: 20036070290 いろは 最後にはみんな、笑ってくれてよかった。 ……これで、もう、おしまい。

voice: 20036070300 いろは もう、誰も悲しい顔しなくて済みますね。 ……センスがないことだって、もう私には関係ないんだ。

voice: 20036070310 いろは あー、よかっ――

voice: 20036070320 いろはさん!

voice: 20036070330 いろは お姉ちゃん!? どうしたんですか? 廊下を走ったら叱られてしまいますよ?

voice: 20036070340 いえ、その、 あなたが、演劇を辞めさせられると聞こえたものですから。

voice: 20036070350 もし、おばあさまがそうおっしゃったのであれば、 私が説得いたします!

voice: 20036070360 あなたの演劇の才能が、こんなところで終わってしまうなんて、 あってはならないことです。だから……!

voice: 20036070370 いろは えっ……?

voice: 20036070380 おばあさまがなんと言おうと、私はあなたの味方です。 それに、今はまだなくたって、いつかあなたにもセンスが……!

voice: 20036070390 いろは ……。

voice: 20036070400 いろは? どうしたの? またつらい言葉を言われてしまった? でも、きっと大丈夫ですから――

voice: 20036070410 いろは ……違うんです。

voice: 20036070420 えっ?

voice: 20036070430 いろは 私が、演劇を辞めるって言いました。

voice: 20036070440 ……どういう、ことですか?

voice: 20036070450 いろは 私から、母さんたちにお願いしたんです。 父さんも、おばあさまも、『それがいい』って言ってくれました。

voice: 20036070460 どうしてですか?  だって、言っていたではありませんか。

voice: 20036070470 いつか、一緒に銀河座の舞台に立ちたいって、 ふたりで一緒に、いっぱいの拍手を浴びたいって。

voice: 20036070480 なのに、急に、そんな……。

voice: 20036070490 いろは ……お姉ちゃんには、きっとわからないと思います。

voice: 20036070500 ……話してみなければわからないでしょう? 私は、あなたの力になりたいの。

voice: 20036070510 いろは でも、お姉ちゃんは私と全然違う。 みんなから期待されていて、いずれはこの家を継ぎ銀河座を導く存在で……。

voice: 20036070520 それなら、あなただって立派な千寿の娘です。 きっと素晴らしい才能を持っていると、皆信じているはずです。

voice: 20036070530 おばあさまたちは確かに厳しくおっしゃることもあるけれど、 あの教えのおかげで千寿の家は代々続けてこられたんです。

voice: 20036070540 voice: 20036070541 ですから、あなたへの意地悪とかではないのよ。 センスのことも、きっと、舞台を続けていればいつか――

voice: 20036070550 いろは お姉ちゃんは黙っていてくださいっ!

voice: 20036070560 っ!?

voice: 20036070570 いろは お姉ちゃんは、私が、みんなにずっとどんな思いをさせてきたのか、 考えたことがありますか?

voice: 20036070580 いろは 私が演劇を続けていたって、誰も幸せになんかなれません。 私が舞台に立とうとするせいで、母さんも父さんも悲しませています。

voice: 20036070590 そんなこと……。

voice: 20036070600 いろは お姉ちゃんはいっつも、お母さんたちに期待をかけられているじゃないですか。 おばあさまだってお姉ちゃんのことばっかり。

voice: 20036070610 いろは 私は、反省しろとか、次は良くしろとか、……可哀想だとか。

voice: 20036070620 いろは お姉ちゃんみたいにほめてもらうことなんて、今まで一回もありません。 私のせいでみんなを怒らせたり、苦しませたり、悪いことばっかりです。

voice: 20036070630 いろは……。

voice: 20036070640 voice: 20036070641 いろは それでどうして、のうのうと舞台に立ち続けようと思えるんですか? 辞めるって言って……おかしいですか?

voice: 20036070650 いろは 私にはお姉ちゃんみたいなセンスはないんです。 お姉ちゃんに、私の気持ちなんてわかりません。

voice: 20036070660 ……。

voice: 20036070670 いろは ……私にも、お姉ちゃんみたいなセンスがあったらよかったのに。

voice: 20036070680 いろは なんにも知らないのに、優しい顔なんてしないでください。

voice: 20036070690 ……そう。

voice: 20036070700 ……。

voice: 20036070710 ごめんなさい、いろはさん。 ……私が、あなたを苦しめていたんですね。

voice: 20036070720 あなたの力になりたい、なんて年上ぶっていたのに、 あなたを守ることができなくて、ごめんなさい。

voice: 20036070730 私は、何も見えていなかったのですね。

voice: 20036070740 voice: 20036070741 いろは お……お姉ちゃん……? ご、ごめんなさい、私、こんなに言うつもりじゃ……。

voice: 20036070750 いいえ。 あなたが言うことが正しいと思うの。

voice: 20036070760 だから、約束をしましょう。

voice: 20036070770 いろは 約束……?

voice: 20036070780 ええ。二度と、この家の者にあなたが責められないようにします。 千寿家のことで、もう二度とあなたが振り回されなくて済むように。

voice: 20036070790 voice: 20036070791 私が、あなたを守ります。お姉ちゃんにまかせて。 ほら、手を。

voice: 20036070800 ゆびきりげんまん、嘘ついたら針千本のーます。

voice: 20036070810 ゆびきった。